2010 年 17 巻 3 号 p. 297-301
73歳,男性。難治性非定型抗酸菌症に対し右胸膜・肺全摘出術を施行中,奇静脈・肺静脈損傷から39,000 mlに及ぶ大量出血後にICU入室となった。入室時,低用量ドパミン投与下に循環動態は安定していたが,胸腔ドレーンから100 ml·hr−1以上の出血が持続,入室12時間での総輸血量は赤血球濃厚液20単位,新鮮凍結血漿20単位,血小板濃厚液30単位に及んだ。入室後6~24時間の間,輸血治療により止血凝固系を含む血液検査値は概ね正常範囲内に維持できたが,出血量は減少しなかった。再止血術や塞栓療法は非適応と判断し,線溶亢進を疑い施行したトロンボエラストメトリでは陽性所見を欠いたが,トラネキサム酸を暫定的に投与したところ1時間で明らかに出血量減少を認め,3時間後にほぼ完全止血,2ヶ月後には軽快退院した。抗線溶薬トラネキサム酸は血小板粘着能の保護効果などにより,明らかな線溶亢進所見を得られない場合でも,その効果を発揮する可能性がある。