本研究は, 揚水水車に関する現地での存廃状況の確認と存廃理由の聞き取り, 諸元の測定を通じ, 今日においても揚水水車が灌漑を目的として利用され続けるための条件を明らかにした.灌漑目的での利用は1980年代のおよそ3割に減少したが, 新設された事例も見られた.聞き取り調査の結果, 廃止された理由としては, 上位技術への更新や, 受益地を水田以外に変更したこと, 更新が不可能であることが, 一方存続理由は費用の都合や, 用水路を堰上げずに分水可能であることが, それぞれ挙げられた.また諸元ごとに存廃の差を見ると, 直径と受益水田面積で両者間に有意な差が見られた.以上から, 揚水水車が今日においても灌漑目的で利用されるための条件は, 直径が1.5~2.5m程度で利用が可能であることに加え, 燃料代の軽減や受益地から得られる収益等で規定される費用上の利点を持つことと考えられた.