タンパク質合成の場であるリボソームは,3種類のRNAと50種類以上のタンパク質からなる分子量250万もの巨大な複合体であることから,構造解析は困難と考えられてきたが,今世紀に入り相次いで高分解能の結晶構造が報告された.最近では,tRNAをはじめ各種翻訳因子とリボソームとの複合体の構造も報告されるようになり,その中から“タンパク質がtRNAを分子擬態する”という新しい概念が生まれた.ここでは,トランス・トランスレーションと呼ばれる変則的な翻訳システムとその主役であるtmRNAに焦点を当て,これまでにない新しい“分子擬態”について紹介する.