化学と生物
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セミナー室
テロメア・テロメレースを標的とした抗腫瘍療法
清宮 啓之
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2010 年 48 巻 10 号 p. 713-719

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抄録

多細胞生物の成立は,様々な器官組織を形成する細胞社会の総体的恒常性によって担保されている.がん細胞(腫瘍細胞)は遺伝子の構造や発現様態に異常をもち,無秩序かつ無制限な分裂増殖,組織浸潤・遠隔転移といった,細胞社会の秩序から逸脱した挙動を示す.そのふるまいはあたかも,自己の増殖繁栄のみを目的とした単細胞生物のようである.我が国では1981年よりがんが死因の第1位を占め,今や3人に1人ががんで亡くなる時代である.その背景として,進行がんは外科切除が困難なこと,従来の抗がん剤は副作用が強いうえに治療効果が必ずしも高くないことが挙げられる.このような状況を打開すべく近年研究開発が進んでいるのが,がんに固有の分子変化をピンポイント攻撃する「分子標的治療」である.すでに,がん細胞の増殖・生存シグナルを遮断するキナーゼ阻害剤や,腫瘍抗原を認識して攻撃する抗体医薬などが臨床で大きな活躍を見せている.ただし,分子標的治療薬はその特異性の高さゆえに,当該標的分子をもたないがんには無効である.個々のがんが示す多様な分子個性に応じた,様々な分子標的治療薬の開発が必要である.今回は,本セミナー室第3回までに解説されたテロメア・テロメレースの知識を踏まえ,これらを標的とした抗腫瘍療法の作用原理と最新の開発状況を概説する.

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© 2010 by Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
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