日本考古学
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徳丹城跡出土の木製胄
第65次発堀調査成果から
西野 修
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2007 年 14 巻 24 号 p. 135-144

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抄録

2005年度から開始した第4次5ヵ年計画に基づく史跡徳丹城跡の発掘調査は,2006年度,2年目の調査として第65次調査を外郭西門跡内部地区で実施した。当地域は,遺跡が立地する段丘の西縁部に当たり,西方に後背湿地が形成されている。調査は,この湿地環境下における遺構の実態把握を目的に行った。
成果としては,周溝で囲まれた2つの工房施設とそれに付属する複数の建物群からなる工房施設群の存在を明らかにできた。このような遺構構成から成立する工房施設群の確認は徳丹城跡では初めてのことで,これにより西部の湿地環境下が「工房施設域」として利用されていた見通しが出てきたことは,新たな見解である。
この2つの工房施設群に挟まれた空間で井戸跡が発見された。小規模な井戸だったが,枠板を持つ本格的なもので,9世紀第3四半期頃には完全に埋没している状況にあった。底からは刳物の「水桶」が出土し,取り上げてみると外面に黒色の漆が塗布された「木製冑」であることが判った。木製冑の年代観は、井戸が開口し機能していた9世紀前半代と同時期と認識していたが,放射性炭素年代測定(C14)は塗布された漆の暦年代を〔640-690cal.AD〕と測定した。木製冑の形状・型式・寸法が,古墳時代末期の「鉄製竪矧板鋲留衝角付冑」に共通することを考慮すれば,Cl4の年代値は極めて調和的といえる。
また,井戸跡の16枚遺存する枠板の中に,「琴」の天板から転用された材が混じっていた。城柵における律令祭祀を示す資料として注目されるが,想像力を働かせれば,蝦夷への饗給で音曲が奏でられていたのかもしれない。

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