日本温泉気候物理医学会雑誌
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原著
Heat shock protein を介した和温療法の不全心筋及び下肢虚血に対する効果
宮内 孝浩池田 義之宮田 昌明鄭 忠和
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2012 年 75 巻 4 号 p. 238-247

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抄録

 和温療法は、均等に60°Cに温度管理できる遠赤外線乾式サウナを用いる温熱治療であり、通常の高温サウナ浴とは異なる。患者は60°Cの遠赤外線乾式サウナで 15分間温浴することにより、深部体温は 1.0°C∼1.2°C 上昇する。出浴後、毛布に包まりさらに 30分間の安静保温を行い、体温上昇を持続させる。和温療法開始時と終了時に体重を測定し、発汗に見合う水分を飲水し、脱水を予防する。
 我々は、和温療法が慢性心不全患者の心機能と血管内皮機能及び予後を改善することや閉塞性動脈硬化症(ASO)患者の症状や血流を改善することを報告した。その機序として基礎実験により、和温療法が実験動物の血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現を亢進し、一酸化窒素(NO)の産生を増加させ、心不全モデルハムスターの心機能を改善することや ASO モデルマウスの血管新生を促進することも報告した。今回、熱など様々な刺激に対応して、生体防御機能を発揮するストレス応答蛋白である熱ショック蛋白(Heat Shock Protein:Hsp)に注目して、和温療法の効果発現機序を検討した。Hsp はシャペロン(介添え)蛋白であり、ストレスによる細胞の蛋白変性や細胞死から守る作用を有する。
 実験の結果、4週間の和温療法は、心不全モデルハムスターの不全心筋において、p38MAPK のシグナル伝達を介して抗酸化作用のある Hsp27、Hsp32 及び Mn-SOD の発現を亢進させることで酸化ストレス(4-hydroxy-2-nonenal:4HNE)を低下させ、心機能を改善することが示唆された。また、ASO モデルマウスにおいて、和温療法はHsp90の発現を増強させ、その下流にある Akt/eNOS/NO シグナル伝達を介して血管新生効果を発現することが示唆された。なお、この ASO モデルにおいて、和温療法による Hsp70、Hsp60、Hsp32、Hsp27 の発現増強は認められなかった。和温療法による熱刺激は、臓器や病態に応じてそれぞれ特有のHspの発現を増強させ、心血管病の病態改善に到ることが示唆された。

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© 2012 日本温泉気候物理医学会
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