主催: 日本霊長類学会・日本哺乳類学会大会
北海道の支笏湖岸では積雪期にニホンジカの越冬集団が形成され,植生衰退,雪崩の誘発,頻繁なシカの道路横断にともなう交通事故リスクなどが顕在化している.地元では,観光地としてのイメージを損ねないよう目立たずに,しかし速やかかつ確実なシカ密度の低減が望まれている.そこで,シカの季節分布と被害発生状況,観光客等の入り込み,捕獲作業の利便と地元合意等を考慮して,捕獲が必要かつ可能な時期と場所を選定し,個体数管理を想定した捕獲を試行した.捕獲の時期は,高密度越冬集団を形成し誘引が容易になる積雪期とした.場所は,植生衰退が顕在化し,シカによる道路横断の頻発区間であって捕獲の要望が強く,しかしアクセスがよく不特定多数の入り込みもある人気温泉旅館至近の閉鎖林道上とした.方法は,設置が簡便で安全確保の容易な森林用ドロップネット(わな)とした.2012年 12月 19日から 2013年 3月 17日までの 89日間に,給餌 9回,わな稼働 12日間のべ 58.5時間で,16頭を捕獲した.捕獲個体は電殺または薬殺し,計測と研究試料を採材した後,酪農学園大学または千歳市の焼却場へ搬送した.これまでのところ本捕獲についての問い合わせや苦情は受けておらず,ドロップネットを用いた捕獲は,作動の確実性に改善の余地があるものの,複数のわなを設置して捕獲機会の向上を図ることなどにより,安全かつ静粛にシカ密度を低減するためのオプションとなりうると考えられた.