霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: A16
会議情報

口頭発表
東山動物園のゴリラのアカンボウと,母親以外の個体との社会的関わり
*竹ノ下 祐二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

共同育児システムは,ヒトを他の大型類人猿をわかつ大きな社会的特徴である。ヒトにおける共同育児の進化的基盤を探る目的で,名古屋市東山動物園で自然分娩によって生まれたゴリラのアカンボウ(キヨマサ)を生後6ヶ月から16ヶ月まで,おおむね週一回観察し,母親および母親以外の個体(父と姉)との近接関係および社会交渉を観察,分析した。月齢が進むにつれ,母親と身体的に接触している時間はゆるやかに減少し,他個体との近接時間が増加した。父も姉もアカンボウに強い関心を示し,手を差し出す,指でつっつく,物を提示するなどさまざまな働きかけを行った。アカンボウは時にはそうした働きかけに反応し,時には自発的に,父や姉と身体接触をともなう社会交渉を行った。父も姉も,関心の強さとはうらはらに,嫌がるアカンボウを身体的に拘束したり,母親から強奪する行動はほとんどしなかった。生後10ヶ月前後から,姉がアカンボウを背中に乗せて運搬する行動が頻繁にみられたが,月齢が進むと頻度は下がった。14ヶ月を過ぎるころから,父親の誘いかけによってレスリングや追いかけっこをすることが増えた。同じ頃から,日中の休息時に母親ではなく姉に接触して昼寝をするようになった。母親も含め,アカンボウに対する攻撃行動はみられなかった。食物分配も一切みられなかった。これらの観察から,ゴリラの社会的発達過程における母親以外の個体との関わりは,母親以外の個体によるアカンボウへの関心を前提とし,かれらがアカンボウの関心領域に自らを提示し,アカンボウの自発的な反応を引き出すことによって始められると考えた。ただし,東山動物園の群れは,ほかにコドモがいない,非血縁のメスがいないという点で野生ゴリラの社会集団と異なる。仮説の一般化にあたっては,行動のさらに細かな分析とともに,他の動物園や野生集団との比較検討が必要である。

著者関連情報
© 2014 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top