ミャンマー中部サベ地域の後期更新世の地層からみつかっていた大型オナガザル亜科化石について、予備的な調査結果を報告する。この化石は1997年に村人によって発見され国立博物館に寄贈されていた。2009年の京都大学霊長類研究所の調査隊により「再発見」されていた。化石の発見者とは現在連絡が取れないため正確な地点は不明だが、化石と共に残されていた紙片にサベ村の北3マイルの地点で見つかったと記されていた。現地調査の結果、当時行われていたサベ村周辺のダム工事の際に発見されたと考えられる。一緒に見つかっていた動物化石はハイエナ類と小型のウシ科のものであるが、その形態や付着していた赤土の状況から年代は後期更新世と考えられる。サルの化石は大型の臼歯片6点からなり、歯のサイズと咬耗の度合いの違いからオスとメスの標本が混在していると思われる。大臼歯の形態からオナガザル亜科であるのは明らかであるが、歯のサイズが非常に大きく、高歯冠で頬側部の溝(median buccal cleft)が深い点は現生のヒヒ的な特徴である。現在のアジアに生息しているオナガザル亜科のサルはマカクMacacaだけであるが、かつては2種類の大型のサルが生息していた。ひとつは鮮新世~前期更新世にヨーロッパ~中国の比較的冷涼な地域に生息していたProcynocephalusやParadolichopithecusの系統である。もうひとつは鮮新世~現生にアフリカ~南アジアに広く分布していたゲラダヒヒTheropithecusの系統である。サベのサルはこの2系統のどちらかに属すると思われるが、サベの遊離歯の形態だけではどちらの系統に近いかを判断するのは非常に難しい。どちらも東南アジアには分布していないことから、アジアのオナガザル亜科の進化史を見直す必要があるだろう。