生物物理化学
Online ISSN : 1349-9785
Print ISSN : 0031-9082
ISSN-L : 0031-9082
54 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 前田 浩人, 堀江 和香, 渡辺 俊文, 坂口 和子, 坪井 愛子, 鈴木 潤
    2010 年 54 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/29
    ジャーナル フリー
    非侵襲的なカテーテル採尿法によって得たネコ尿(0.25 μL)を試料として,ミクロ2次元電気泳動法(micro two-dimensional polyacrylamidegel electrophoresis; M2D-PAGE)による分析を行い,得られたスポットの画像分析よりニワトリ・オバルブミンを標準試料として尿中アルブミン(Alb)値を定量した.なお,スポットはウエスタンブロットおよび質量分析で同定を行い,ネコAlbであることを確認した.M2D-PAGE法による尿中Alb定量は現在獣医臨床検査で行われているヒトAlbを標準試料とした抗ヒトAlb抗体を用いた免疫比濁法に比較して高い定量値を与える測定法であることを確認した.また,慢性腎不全において国際獣医腎臓病研究グループ(The international renal interest society; IRIS)による各病期分類された第I期においてもAlbが高値を示す症例も見られることから,早期診断に有用な検査法であることが示された.加えて,正常ネコでは尿中Alb値が20 mg/dLを超える例が認められないことから,従来のカットオフ値である30 mg/dLを下回る20 mg/dLを正常値の閾値とする基準を提案する.
技術
  • 久保田 亮, 鴻上 繁, 松田 武英, 福島 功平, 保坂 俊明, 芝 紀代子
    原稿種別: 〔技 術〕
    2010 年 54 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/29
    ジャーナル フリー
    光学式濃度測定法(デンシトメトリー)は,セルロースアセテート膜やポリアクリルアミドゲルを支持体とした電気泳動法による血清蛋白,酵素アイソザイムやリポ蛋白の電気泳動像のパターン解析に広く用いられている.
     今回我々は,電気泳動による分離パターンをフィンガープリンター装置(常光)のCCDカメラで撮影し,取り込んだ画像データを用いて解析を行う電気泳動像解析システム(CCD法)を考案した.
     デンシトメトリーとCCDカメラによって測定される光学濃度と画素値の関係を確立するための換算式を求め,その結果に基づき,血清および尿蛋白分画,血清アルカリ性ホスファターゼ(ALP)アイソザイムの電気泳動像について,デンシトメトリー法とCCD法との比較検討を行った.
     CCD法とデンシトメトリー法とは良好な相関(r=>0.95)が得られ,同等の再現性が認められた.さらに,CCD法はコンピュータの画面上で波形を重ね合わせて比較することができるので,蛋白分画やALPアイソザイムパターン異常の解析が簡単に行えるようになった.
     これらの結果から,フィンガープリンターを用いたCCD法は,臨床検査における電気泳動像分析において,有用な手法であることが示された.さらに電気泳動像を含んだ患者情報のデータファイリングも簡便に行うことが可能となった.
特集:アミロイド蛋白の基礎と臨床
  • 内木 宏延
    原稿種別: 〔特集:アミロイド蛋白の基礎と臨床〕
    2010 年 54 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/29
    ジャーナル フリー
    われわれはこれまでに,独自に開発した分光蛍光定量法及び反応速度論的実験系を駆使し,アミロイド線維形成過程を説明する重合核依存性重合モデルを構築,様々な生体分子のβ2-ミクログロブリン(β2-m)アミロイド線維形成過程に及ぼす影響を解析して来た.最近,リゾフォスファチジン酸(LPA)など一部のリゾリン脂質,各種遊離脂肪酸(NEFA)など,陰性荷電を有する生体界面活性分子が,生理条件下におけるβ2-mアミロイド線維の試験管内伸長反応を促進すること,その分子機構として,LPA及びNEFAがβ2-mの天然構造を部分的にアンフォールドさせること,LPAがアミロイド線維表面に結合し,線維構造を安定化させることにより脱重合を阻害することを明らかにした.本稿では,β2-mアミロイド線維の形成・沈着をもたらす生体分子間相互作用に焦点を当て,β2-mアミロイドーシス発症の分子機構を概観する.
  • 矢崎 正英, 鈴木 彩子, 池田 修一, 亀谷 富由樹
    原稿種別: 〔特集:アミロイド蛋白の基礎と臨床〕
    2010 年 54 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/29
    ジャーナル フリー
    アミロイドーシスは,アミロイド線維蛋白が様々な臓器の細胞外組織に沈着し,その臓器障害を引き起こす一連の症候群である.アミロイドーシスは,その沈着蛋白の前駆蛋白質の種類により分類され,これまで約20種類の病型が同定されている.アミロイドーシスの治療法は,その病型により異なっているので,正確な病型診断が非常に重要である.今回我々は,アミロイドーシスの病型診断における,微小生検組織からのアミロイド抽出・生化学的分析法の有効性について報告する.患者は,従来の免疫組織化学的検索で病型診断できなかった2症例で,各々腎生検組織と末梢神経生検組織からアミロイドを抽出し,免疫グロブリン重鎖由来のAHアミロイドーシスと軽鎖由来のALアミロイドーシスと診断できた.このように,微小生検組織からのアミロイド解析法は,アミロイドーシスの病型診断に非常に有用な手法である.
  • 大林 光念, 安東 由喜雄
    原稿種別: 〔特集:アミロイド蛋白の基礎と臨床〕
    2010 年 54 巻 1 号 p. 23-25
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/29
    ジャーナル フリー
    異型 トランスサイレチン(TTR)を原因蛋白質とする家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)に対する,新たな治療戦略として,抗体治療実験:,シクロデキストリン(CyD)を用いたアミロイド線維形成抑制実験,single stranded oligonucleotides(SSOs)によるTTR遺伝子修復の検討,およびsiRNAを用いた治療実験を考案した.人工的点変異TTR(ATTR Y78P)で免疫したトランスジェニックラットでは,抗ATTR V30M抗体を惹起できた.分岐β-CyDは,TTRのアミロイド線維形成を有意に抑制した.SSOはin vitro で27%,in vivoで約8%の遺伝子組換を起こした.トランスジェニックラットATTR V30Mの網膜色素上皮細胞にヒトTTR siRNAを投与すると,同部での異型 TTR 発現が有意に抑制された.これらはいずれも,FAPの新規治療法となりうる可能性をもつ.
  • 山田 俊幸
    原稿種別: 〔特集:アミロイド蛋白の基礎と臨床〕
    2010 年 54 巻 1 号 p. 27-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/29
    ジャーナル フリー
    アミロイドーシスは病理組織学的に診断されるが,生化学的手法による前駆物質へのアプローチも補助診断となりうる.AL型においてはベンスジョーンズ蛋白の検出が重要で,血中遊離L鎖定量は新しく有望な方法である.AA型においては血清アミロイドAの遺伝子多型がリスク診断として期待される.ATTRにおいてはトランスサイレチンの質量分析による変異診断または遺伝子解析による変異同定が行われる.Aβ2m型では透析効率を評価するためにβ2-ミクログロブリン濃度が測定される.
特別企画II:臨床検査領域におけるプロテオミクスの現状と未来像
  • 真鍋 敬, 金 亜
    原稿種別: 〔特別企画II:臨床検査領域におけるプロテオミクスの現状と未来像〕
    2010 年 54 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/10
    ジャーナル フリー
    すべての生物が生存してゆくための機能を担っているのは数千種から数万種に及ぶと考えられるタンパク質であり,それぞれのタンパク質のもつ個別の機能の時間的・空間的相互作用によって生物全体としての機能が発現されていると考えられる.われわれは,プロテオミクスとは,ある生物種における機能性タンパク質同士の相互作用の全体像を明らかにすることによって,生物機能の全体像を解明しようとする研究の方向であると考えている.われわれがプロテオミクス技術開発のためのタンパク質集合体モデルとして用いてきたヒト血漿について,非変性条件のマイクロ2次元ゲル電気泳動とMALDI-MSペプチドマスフィンガープリント法を用いて解析した結果を紹介する.また,タンパク質相互作用解析のために開発してきた技術を,大腸菌タンパク質の解析に応用した例も紹介する.
  • 大石 正道, 小寺 義男, 前田 忠計, 朝長 毅, 西森 孝典, 清宮 正徳, 松下 一之, 野村 文夫
    原稿種別: 〔特別企画II:臨床検査領域におけるプロテオミクスの現状と未来像〕
    2010 年 54 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/10
    ジャーナル フリー
    疾患プロテオミクスでもっとも期待される分野の一つとして疾患診断用マーカー蛋白質の探索が挙げられる.しかし,分子量100 kDa以上の高分子量蛋白質の解析はとても難しく,イモビラインを用いた二次元電気泳動法では解析できなかった.我々は,600 kDaの高分子量蛋白質も解析可能な,一次元目にアガロースIEFゲルを用いた二次元電気泳動法(アガロース2-DE)を用いて,食道扁平上皮癌,大腸癌および肝細胞癌で,それぞれ疾患プロテオーム解析を行い,各種マーカー蛋白質候補を多数検出することに成功した.中でも,食道扁平上皮癌においては非癌部に比べて200 kDaのperiplakinが有意に減少し,肝細胞癌では190 kDaのclathrin heavy chainが非癌部に比べて顕著に増加するなど,アガロース2-DEを基盤としたプロテオミクスの手法が高分子量蛋白質の疾患マーカー探索に有用であることが明らかになった.
feedback
Top