環境科学会誌
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化学物質のヒト健康リスク初期評価結果の簡易推定手法の構築
吉田 喜久雄手口 直美
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2007 年 20 巻 6 号 p. 423-433

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抄録

 近年,わが国でも様々な化学物質のヒト健康と生態へのリスクが評価され,その結果がリスク評価書として公開されている。しかし,評価された物質数は限られているため,化学物質のリスク評価を加速する必要があるが,現行のモニタリングデータに基づく評価方法は,利用可能な情報がない多くの物質には適用できない。そこで,評価物質数が多い環境省の環境リスク初期評価を対象に,「リスクは懸念されない」あるいは「詳細評価または情報収集が必要」と判定される評価結果に大きな影響を及ぼす物質特性を環境動態モデルと媒体間移行モデルにより抽出し,多重ロジスティック回帰分析で現行の評価法よりも少ないデータや情報で初期評価と同様の判定が可能な手法の構築を検討した。その結果,屋外大気吸入暴露リスクについては,化学物質の無毒性量,環境排出量,蒸気圧,オクタノール/水分配係数(Kow)および反応半減期を説明変数とする回帰モデルで「リスクは懸念されない」または「詳細評価や情報収集が必要」かを判定できると示唆された。また,経口暴露リスクについては,無毒性量,環境排出量,Kowおよび難分解性を説明変数とする回帰式で判定できると示唆された。屋外大気吸入暴露と経口暴露リスク判定に対する多重ロジスティックモデルの回帰係数の不確かさは,回帰モデルで「リスクが懸念されない」と判定される確率が高い場合には,判定に大きな影響を及ぼさなかったが,現時点では,初期評価済みの化学物質数が少ないため,初期評価済みの物質数が増えた時点で再度,回帰分析を実施し,回帰モデルの判定精度を向上させる必要があると考えられる。さらに,このような簡易推定手法の構築に加えて,多数の化学物質のリスクを迅速に初期評価し,判定するためには,既存および新規の化学物質の無毒性量情報を活用することも必要と考えられる。

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