大気環境学会誌
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兵庫県における酸性沈着調査・研究
藍川 昌秀
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2008 年 43 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

兵庫県では酸性雨問題への地方自治体としての取り組みとして, 様々な調査・研究を行ってきた。それらの調査・研究に関する成果を, 湿性沈着, 乾性沈着森林影響, 越境移動という観点からとりまとめた。
湿性沈着については, 降水 (降雪を含む) 及び霧水という対象について調査・研究を行ってきた。降水については, 県下の地理的・産業的に異なる地点属性を有する5地点において, ろ過式採取法により試料を採取し, 地域ごとの降水の特徴を明らかとした。霧水については, 都市域 (神戸市) の背後地に位置する六甲山において7年間の通年観測を実施し, 降水と霧水の差異霧の発生に関する科学的考察, 霧水中化学成分濃度の長期変動霧の発生・消滅と大気中ガス・エアロゾルの関連等について, 解析・考察を行った。
乾性沈着については, 4段ろ紙法を用い, 大気中ガス・エアロゾル成分濃度を調査し, その結果に基づき, 都市域における乾性沈着量を推定した。
森林影響については, 地点属性が異なる2地域の集水域での降水, 霧水, 林内雨, 樹幹流, 大気中ガス・エアロゾルによる大気圏からの物質負荷について比較調査を実施するとともに, 硫黄成分について大気圏からの負荷量と渓流水による流出量の収支バランスについて解析・考察した。
越境移動については, 4段ろ紙法による大気中ガス・エアロゾル採取を6時間ごとに行う濃度調査を, 大陸からの越境移動が著しくなる冬季に, 日本海沿岸地域で実施し, 大気汚染物質の越境移動を地上観測により明らかとするとともに, 調査地点到達気塊の輸送経路の違いによる観測される汚染物質濃度の差異について解析・考察した。
今後は, これまで実施してきた調査・研究を継続的に, より総合的に, 発展的に展開していくことにより,「酸性雨」という概念を起点として大気汚染・大気環境というより包括的な取り組みを推進していくこととしたい。

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