特殊教育学研究
Online ISSN : 2186-5132
Print ISSN : 0387-3374
ISSN-L : 0387-3374
50 巻, 3 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
資料
  • ―手話表現と併用する音声・口形の関連を中心に―
    佐伯 秋浩, 立入 哉
    2012 年 50 巻 3 号 p. 217-226
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本研究は、ろう学校の聴者教員が使用する手話について分析したものである。多くのろう学校で使用する手話は、日本語に対応する形で音声併用手話と音声非併用手話の2つがある。その手話を、課題の伝達場面を設定して収集し、手話の表出と併用している音声や口形、手話表現を調べた。その結果、表出においては、音声併用手話では再提示が、音声非併用手話では省略が顕著であった。音声や口形、手話表現との関連については、特に手話の経験年数が長い対象者に口形を非提示にしての手話表現の変化が、また、経験年数が短い対象者に音声のみの提示がよくみられた。そして、手話経験年数の長短により、音声併用手話、音声非併用手話の表出や表現には異なる面があることが確認できた。
  • 長南 浩人, 澤 隆史
    2012 年 50 巻 3 号 p. 227-234
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本研究は、聴覚障害児を対象としたリーディングスパンテスト作成を目的とした。試作したテストを小学1年生から6年生61人に実施し、本テストの個人別得点やターゲット語の正再生率および信頼性を検討した。その結果、以下の結果が得られた。小学1、2年生群では、信頼性を示す値が十分ではなく、また正再生率が低いターゲット語が多かった。小学3、4年生群は、信頼性を示す値は十分に高かったが、正再生率が低いターゲット語も抽出された。小学5、6年生群は、信頼性が確認され、また正再生率が低いターゲット語はなかった。以上のことから、本研究で試作した聴覚障害児用リーディングスパンテストは、小学5、6年生の聴覚障害児を対象とした場合、適切性を有するものと考えられた。
  • ―通常学級で学ぶ聴覚障害児への支援事例から―
    能美 由希子, 四日市 章
    2012 年 50 巻 3 号 p. 235-245
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    授業における教師と児童とのやりとりは重要であり、教師は、児童の発言の承認、言い換え、復唱などを入れたり、質問後に時間を取ったりすることで、児童の思考を深めることを狙っている。本研究では、このような教師による発言やタイミングの意図的な調整が、提示内容および時間的側面で制限のあるパソコン要約筆記文でどのように表現されているのかを明らかにするため、小学校授業場面における聴覚障害児支援の事例を取り上げ、教師や児童の発言と要約筆記文とを比較分析した。その結果、要約筆記文では、(1) 教師による復唱発言などは省略され、結果的に話者交替の回数が減少していること、(2) 話者交替に伴う空白時間にばらつきがあり、児童の思考を深めようとする教師の意図は反映されていないこと、一方、(3) 聴覚障害児の発言時には、復唱発言や話者交替が提示されるなど聴覚障害児の学習参加が実現されるための配慮がなされていたこと、が明らかになった。
  • ―日米の現状比較を通じた今後の課題の検討―
    近藤 武夫
    2012 年 50 巻 3 号 p. 247-256
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    米国の公立初等中等教育では、視覚障害、肢体不自由、学習障害などの多様な障害を原因として印刷物にアクセスすることが難しい児童生徒に対し、電子データ形式で作られた教科書を無償で入手できる環境が、連邦政府により整備されている。また、こうした電子教科書の利用においては、電子教科書データの提供だけではなく、支援技術製品の児童生徒への提供、および支援技術の専門家による利用支援の提供が、個別障害者教育法(IDEA)を背景として制度化されている。本論文では、障害のある児童生徒にとってアクセス可能な電子教科書の入手および学校場面での利用とその支援に関して、米国の現状を概観し、また、日米の現状比較を通じて日本国内で解決すべき電子教科書および支援技術利用上の課題について検討する。
  • 江田 裕介, 平林 ルミ, 河野 俊寛, 中邑 賢龍
    2012 年 50 巻 3 号 p. 257-267
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    特別支援学校(知的障害)高等部に在籍する軽度障害の生徒201名を対象として、視写書字速度とその正確さを測定した。生徒は漢字の含有率が異なる小学3年生水準と6年生水準の文章を、有意味文と無意味文の条件で3分間ずつ書き写した。生徒の書字数の平均を、課題の (1) 学年要因、(2) 意味要因、および (3) 生徒の性別の3要因で分析した。その結果、3年生水準では有意味文の視写が無意味文の視写より速いが、6年生水準では意味要因による差を生じなかった。生徒の性別では、どの条件でも女子の書字数が男子より多かった。また、同時に調査を実施した障害のない成人の平均書字数を2標準偏差下回った。視写速度と正確さについてエラーを調べたところ、エラーのない生徒の書字速度はエラーのある生徒より遅かった。一方、エラーのある生徒のエラー率は書字速度と負の相関がみられた。文の意味を記憶しながら書く方略が弱く、1文字ずつ転写する傾向があり、特別支援学校生徒には正確だが速度が遅いという特徴が多くみられた。
実践研究
  • 末永 統, 小笠原 恵
    2012 年 50 巻 3 号 p. 269-278
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本研究では、行動問題を示す広汎性発達障害児に対して、自己管理手続きを導入し、行動問題と競合する望ましい行動の促進に及ぼす効果について検討した。おもに家庭において、一方的なお喋りに起因して、自傷や物壊し、悪口、食事拒否などの行動問題を示していた男子生徒に対し、機能的アセスメントに基づき、行動問題および望ましい行動の生起の有無について自己記録する日記形式のツールを導入した。記録は原則として毎日、対象児が記入・計算・グラフ化し、1か月ごとに当月あたりの達成基準を上回っていた場合、対象児の希望するグッズや活動を呈示した。その結果、望ましい行動は達成基準に応じて促進する傾向を示した。他者記録期においては、行動問題は一定の記録数に低減した。行動問題や望ましい行動に対する自己管理手続きの効果について検討した。
  • ―音楽課題を用いて―
    榊原 美紀
    2012 年 50 巻 3 号 p. 279-287
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本研究では、対人トラブルで攻撃的な行動を示しやすいアスペルガー症候群幼児を対象に、行動調整を促すことを目的とした音楽課題を実施し、音楽課題における自己評価による行動調整の発達過程を検討した。自己評価には「正の自己評価」「負の自己評価」「誤った自己評価」が観察された。自己評価は、2回連続した正の自己評価を増加させ、負の自己評価によって不適切な行動が修正されることが示唆された。自己評価の機会が増えることで正確な自己評価が行えるようになり、動機づけが高まり、行動調整が促進されたと考えられる。今後は、音楽療法士による無意識のノンバーバル・コミュニケーション行動が、対象児の自己評価にどのように関連するか、また、そのことによって行動調整の促進にどのように関わっているのかについて検討が必要であろう。
  • 上野 茜, 高浜 浩二, 野呂 文行
    2012 年 50 巻 3 号 p. 289-304
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    発達障害児親の会に所属する家族4組に対して、講義と演習からなる集団形式のペアレントトレーニングの中で、親同士による相互ビデオフィードバックを行った。ビデオは家庭での課題の様子を親が撮影したものを用いた。相互ビデオフィードバックは、ビデオ視聴、親によるコメント、メンバーからのコメント、スタッフからのコメントから構成された。親の知識、不安、親子の行動変容を、KBPAC、新版STAI、ビデオによる行動観察から評価した。介入の結果、ほとんどの参加者において、KBPACの得点の増加、新版STAIの得点の減少がみられた。また、親の適切行動と子どもの課題達成率においても改善がみられた。親の発言やアンケート結果より、集団形式のペアレントトレーニングの中でビデオを用いた相互フィードバックの有効性が示唆された。今後の課題として、ビデオ撮影に関するコスト、実験デザインの改善があげられる。
研究時評
  • 小野 昌彦
    2012 年 50 巻 3 号 p. 305-312
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本研究は、わが国における不登校状態を呈している発達障害児童生徒に関する実態調査およびその支援方法に関する2001年から2010年までの研究動向と、今後の課題を検討した。不登校状態を呈している発達障害児童生徒に関する研究論文は、43編あった。レビュー4編、実態調査研究16編、臨床的研究23編であった。不登校状態を呈している発達障害児童生徒に対する事例研究は地域レベルでの実態調査研究が多かったが、全国レベルの調査は少なかった。不登校状態を呈している発達障害児童生徒に対する事例研究は、再登校支援に関する研究が多く、不登校予防、再登校以降の登校維持、追跡研究は少なかった。今後の課題として、不登校定義の客観化、不登校認定プロセスの問題、個別支援計画の検討の3点を指摘した。
  • 児嶋 芳郎
    2012 年 50 巻 3 号 p. 313-321
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本稿は、障害の種別の中でも、実践を行う際により困難が多いと考えられる知的障害児の性教育、それも性教育の中心的な場に位置づくと考えられる学校での性教育に限定して、その研究動向を探るとともに、その課題、今後の方向性を提起することを目的とした。理論研究の動向については、学会発表および学術論文の検討より明らかにした。次いで理論研究を、(1) 性教育実践の実施状況、(2) 教師の性教育に関する意識調査、(3) 保護者の性教育に関する意識調査、に大別し、代表的な研究内容を紹介した。実践研究の動向については、雑誌報告および民間教育研究団体における検討の状況より明らかにした。最後に、今後の研究課題として、(1) 指導計画試案、(2) 教師の性教育への意識の変化と性教育の発展、(3) 保護者・子どものニーズの検証、の3点を提起した。
  • 後藤 信之
    2012 年 50 巻 3 号 p. 323-332
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/18
    ジャーナル フリー
    本稿では、近年の少年院における矯正教育について概括した。特に、矯正教育と日本特殊教育学会関係部会との連携の観点から、まず、知的障害や発達障害等の少年を対象としている特殊教育課程の少年院における実践・研究について整理した。次いで、関係部会とより関連が深いと思われる、発達障害を有する少年に対する矯正教育、就労支援やキャリア教育、被害者の視点を取り入れた教育について、これまでの施策動向や実践の状況を踏まえつつ、研究動向や今後の課題について論じた。また、近年活発になっている、少年院の教官による実践研究ではなく、大学や研究機関の教育学者、研究者等による矯正教育研究の状況について整理した。そして、それら実践・研究の動向等を踏まえ、今後の課題などについてまとめた。
feedback
Top