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熱帯雨林におけるフタバガキ科Dryobalanops aromaticaおよびD. lanceolata下に発達する土壌の特性一マレーシア,サラワク州,ランビルヒルズ国立公園における事例
平井 英明松村 弘広谷 博史桜井 克年荻野 和彦Hua Seng LEE
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1997 年 7 巻 1+2 号 p. 21-33

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抄録

Dryobalanops aromatica (Da)とD. lanceolata (Dl)はボルネオ熱帯雨林において突出木層を構成している主要なフタバガキ属の樹種である。その分布は近接しているが,決して重なり合うことはない。本論文では,これら2樹種の分布を,土壌形態学的,物理学的,化学的,微生物学的特性から吟味した。
地形的にみれば,Daは斜面上部のみに分布していたが,Dlは斜面の上部および下部に分布していた。この2樹種の優先する土壌の深さはいずれも1.3m以上であった。土性はDa土壌では砂質であったが,Dl土壌では砂質から粘質とその範囲が広かった。さらに,次のような差異が両土壌に認められた。1)リター層は伽土壌で厚かった。2)次表層の土色はDl土壌の方が鈍い色調を示していた。3)Dl土壌にはレキが認められたのに対して,翫土壌では認められなかった。4)交換性陽イオンのうち,CaおよびMg含量はD1土壌の方が高かった。5)交換性AlとH含量はDa土壌で高かった。6)気相,粗孔隙量と砂含量はDa土壌の方が高かった。このことは,降雨後Da土壌はより乾燥した土壌水分条件になることを示すが,それは土壌水分ポテンシャルのモニターによって証明された。7)カビはDa土壌の方がD1土壌よりも10倍多く認められた。
以上の結果を総合するとDaは乾燥し易く,貧栄養で酸性の強い,安定した土壌生成過程を経た土壌に成立する。一方,D1はある期間還元を受けるような湿潤条件下で,かつDa土壌に比較して養分状態がよく,酸性が弱く,土壌生成過程の弱い土壌に成立することが明らかとなった。現地の焼畑農民はDlが成立する土地を耕地として利用するが,このDl土壌の特性を考慮すると,農民の伝統的な土地識別方法はきわめて適切であることが土壌学的観点から明らかとなった。

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© 1997 日本熱帯生態学会
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