植生学会誌
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原著論文
猪名川上流域の池田炭と里山林の歴史
服部 保南山 典子松村 俊和
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2005 年 22 巻 1 号 p. 41-51

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抄録

  1.猪名川上流域における池田炭とクヌギ林の歴史について植生研究の視点から古文書・書籍を用いて調査を行った.  2.江戸時代の29の書籍に池田炭,クヌギ等についての記述を確認した.木炭の名称が池田炭であること,生産地が一庫であること,木炭の集散地が池田であること,木炭の原木がクヌギであること,生産方法として輪伐・台場クヌギ・植林が載せられていること,木炭の形態が切炭であり,菊炭であること,池田炭は茶道との関係が深く,高い評価を受けていることなどが記述の内容であった.
  3.古文書,伝承における木炭関係の記録として,1145年より1833年の間に27項目が確認できた.輪伐,御用炭,豊臣秀吉の賞用などが記録されていた.
  4.延宝検地帳には一庫,黒川,国崎,吉川などの村に「クヌギ山」が存在すること,一庫では御用炭を納めていたことなどが記録されていた.
  5.古文書・書籍の記述と現在の池田炭生産の状況を比較すると池田炭の原木,池田炭生産地,クヌギ林の分布,クヌギの植林,台場クヌギの存在,輪伐期などの点において一致した.
  6.池田炭は室町時代より続く国内で第一級の木炭であり,その木炭の原木を提供している猪名川上流域の里山林は歴史性が明らかであること,地域固有の伝統的な里山林管理が現在も行われていることなどの点において非常に重要であると認められた.今後,当地域のクヌギ林管理が必要であると考えられる.

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