本研究は,なぜ造形表現というメディアが子どもたちに自我の拡張感を得させ,身体的な感覚を回復し自然への回帰をもたらすのかを,彼らの表現と質問紙の分析に心理学の知見を加えて考察したものである。自我の拡張感をもたらすのは,描画のためのメディアが内発的動機を喚起するものとして,挑戦・好奇心・統制・空想を高い水準で満たすものであるからと考えられる。また回復や回帰をもたらすのは,子どもたちを取り巻く環境や遊びの質の変容により,彼らが失いつつある体性感覚としての身体的な感覚や安心感としての自然を,行為としての造形表現の中で自ら取り戻そうとしているからではないかという考察結果が得られた。