抄録
本論文は,開発途上国の位置付けとしてのモルディブ共和国における美術教育のはじまりを,歴史的資料に基づいて解明するものである。モルディブ共和国では,同国初のナショナルカリキュラムが導入された1984年に,学校教育としての美術が始まった。その1984年版の美術カリキュラムを読み解くことによって,同国初期の美術教育が,「創造主義・子ども中心主義」的な絵画表現活動や特定の表現技法の習得を重視しており,諸外国における美術教育の影響が認められるものであった一方で,建材や身近な生活用品などのヤシを用いた伝統的造形の学習がその大きな位置を占める,現地における伝統文化の継承という役割を担うものでもあったという事実が明らかとなった。