アフリカ研究
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論文
モザンビーク南部の移民送り出しとその社会的影響の地域的多様性
植民地期のアルコール市場をめぐる競合と排除
網中 昭世
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2010 年 2010 巻 76 号 p. 1-15

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抄録

本稿は,移民労働を生じさせる植民地支配下の社会状況と移民労働それ自体が社会に及ぼす影響の相互作用と多様性を浮かび上がらせるため,当該地域における市場の形成過程とその構造の地域的差異を明らかにする試みである。モザンビーク南部は南アフリカ金鉱業の一大労働力供給地として位置づけられていたが,先行研究では単身男性に限定された移民労働を管理する一元的な枠組みに基づき,南部の送り出し地域が同質的に扱われてきた。そのために先行研究が論じた移民労働の影響も南部の送り出し地域に共通するものとして理解されてきた。
先行研究が移民労働の影響を測るうえで世帯を分析単位とした階層化を指標としたのに対して,本稿では分析単位を地域社会に広げ,蓄財と消費をめぐる諸条件に見られる当該社会の特殊性を踏まえたうえで検討する。考察にあたっては,入植者,本国産業,そしてアフリカ人農民女性の3者が競合と排除を繰り広げたアルコール市場に注目した。
考察の過程では,市場の担い手が地域によって本国産業と賃金労働市場から排除されていたアフリカ人農民女性に二分されたことが示される。これにより,本国産業が支配的となった地域では移民賃金が本国産業を潤す結果となっているのに対し,アフリカ人農民女性が市場の中心的担い手となった地域では移民賃金がより多く世帯の枠を超えて当該社会内部で流通し,階層化の度合いを弱めるという地域的多様性をもたらしている。

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© 2010 日本アフリカ学会
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