2015 年 2015 巻 87 号 p. 13-20
西アフリカのサヘル地域では,人口増加や耕作地の拡大に起因した土地荒廃の問題が深刻化している。乾燥や不安定な降雨,貧栄養土壌などの厳しい状況のもとで,農耕民ハウサは耕作地内に生育する樹木の形状を認識し,その樹形を管理することによって,食料生産に活用している。
人びとは耕作地に生育する樹木の形状を,(1)樹齢1年以下で剪定されていないラブ,(2)樹齢2年以上で剪定されていないバラウ,(3)樹高がトウジンビエより低く,下方の枝が剪定されたマタシ,(4)樹高がトウジンビエより高く,太い幹を有したマヤンチの4種類に分類している。
人びとは,ラブとバラウを表土の流亡の防止と土地荒廃への対策に利用し,マタシを風や太陽熱から作物を保護する目的で利用していた。マヤンチは,木陰が休憩場所や牧畜民のキャンプに利用される一方で,樹木の葉や実が食料や家畜の飼料として利用され,貴重な救荒食料の供給源となる。耕作地の保有者は,みずからの食料状況や耕作地の状態と,耕作地に生育する樹木をむすびつけて,樹木の形状を管理し,食料生産に樹木の利用を積極的に取り入れていることが明らかとなった。