アフリカ研究
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特集:アフリカ漁民の世界を探る
スーダン紅海北部ドンゴナーブ湾海洋保護区の漁撈活動とジュゴン混獲問題
中村 亮アーディル ムハンマド サーリフ
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2015 年 2015 巻 87 号 p. 77-90

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抄録

本稿では,海洋保護区において漁民と保護動物ジュゴンがいかに調和的に共存可能かについて,スーダン紅海北部ドンゴナーブ湾海洋保護区の漁撈活動より考察する。77漁場の水深と底質を分析した結果,水深30m以下の漁場が84%,底質がサンゴ礁の漁場が70%であった。この海域の漁撈活動は,サンゴ礁に生息する魚介類を主な漁獲対象とし,浅海の利用頻度が高い傾向がある。湾外の水深40~50mの深い海は,高級魚スジハタ(Plectropomus maculatus)の漁場である。スジハタは産卵期(5~ 6月)に集中して獲られるが,漁法は不確実性が高く効率の悪い一本手釣りである。魚群探知機の使用もほとんどない。商品価値の高い資源は深い海に潜んでいるが,漁撈技術との兼ねあいからその利用は難しい。加えて,強風や夏場の気温上昇により,漁撈は強い活動制限を受けている。これが天然の休漁となり,過剰な資源利用が抑制されていると推測できる。問題は,ジュゴン混獲を含む浅い海の資源管理である。これまでの調査研究より,ジュゴン混獲の主原因が「夜間に海草藻場周辺に仕掛けられる撚糸刺し網」であることが判明した。この地域では歴史的にジュゴンの利用があったが,現在の漁民はジュゴンが網にかかることを嫌う。今ではジュゴンの商品価値はほとんどなく,かかると高価な刺し網が破損してしまうからである。漁民とジュゴンの調和的共存をめざし,利害関係者との協議のうえ,ジュゴン発見時には漁を中止するや,海草藻場周辺では撚糸刺し網を使用しないという申し合わせは充分に達成可能である。

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© 2015 日本アフリカ学会
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