2015 年 2015 巻 88 号 p. 1-12
アフリカ諸国の女子の就学問題に関する従来の議論においては,女子教育の社会的な重要性や,就学状況をいかに改善し,就学におけるジェンダー平等を達成するかということが主に論じられてきた。一方で,個々の女性がどのような状況の下で就学することを選択しているのかということは検討されてこなかった。また,女子の中退や未就学を問題視し,それらを防止するための議論がなされているが,中退経験者や学齢期に就学しなかった人びとのその後の教育に関しても検討する必要がある。本論では,エチオピア西南部マーレの農村において,学齢期を超過しての就学または復学を経験した3人の女性に対する聞き取りから,それぞれの女性が就学または復学という選択に至る経緯について明らかにした。現行の教育システムと,女性の就学に対する社会的承認と個人の状況的な意志がかみ合い,親密な間柄のなかで関係の調節がおこなわれたことによって,3人の就学は可能となっていた。継続的な女子教育を達成するためには,固定的なライフサイクルを前提とした単線的な教育開発を考えるのではなく,多様な行動選択を含むライフコースも視野に入れることが重要であることを指摘した。