アフリカ研究
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論文
相互扶助は子どもの生存に寄与するか
─タンザニア3地域乳幼児死亡要因の比較分析─
阪本 公美子
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2017 年 2017 巻 92 号 p. 1-17

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抄録

アフリカにおける相互扶助や広義の「ケア」の重要性はこれまで議論されてきたが,それらがどの程度乳幼児死亡に寄与しているのかは明らかになっていない。本論ではタンザニアにて5歳未満児死亡率が高かった州で,異なる特徴を持つ3村において詳細な質問票調査を行い,乳幼児の死亡経験との関連を分析した。その結果,第一に,世帯員数や女性数でみた「ケア」は,ザンジバルの農村で乳幼児死亡と負の相関関係があり,生存への寄与の可能性があったが,農牧村ではむしろ逆の様相がみられた。第二に,食料が不足する本土2村では「食料不足の際子どもは親戚宅で食べられること」が,乳幼児の生存に寄与している傾向がみられた。しかしその相互扶助は包括的ではなく,村内において食の平準化が機能していなかった。第三に,子どもの薬への現金支援を他人から得た女性の方が乳幼児の死を経験しており,薬代をめぐる相互扶助は機能していなかった。但し,現金を介する相互扶助は,スワヒリ地域では食費,農牧村では通院費がより頻繁にみられ,地域差があった。結論として,食の相互扶助は子どもの生存に寄与するが,相互扶助から漏れる乳幼児も少なくなく,その死亡率も高かった。

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© 2017 日本アフリカ学会
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