2017 年 2017 巻 92 号 p. 55-68
近年,少数民族が観光に参加することで貧困削減やエンパワーメントが進むことが期待され,南部アフリカでもその一つとして「ブッシュマン観光」がさかんになっている。本論では,ボツワナのハンツィ地域の「ブッシュマン観光」の成立過程と,地域の社会関係にもたらすインパクトを検証した。結果,この観光は,南部アフリカの政治的安定やインフラ整備による観光客の増加を背景に,ブッシュマンと「地元白人」が中心的担い手となって成立していた。そして地域の支配的集団である「地元白人」が力を持ちつつも,観光はブッシュマンにとって高額な現金収入源となり,観光内容や働き方に関する決定権や自由もある程度保証されていること,またブッシュマンのあいだで観光業に関わる人の顔触れが頻繁に変わることにより,観光がもたらす格差が抑えられていることが明らかになった。しかし,「地元白人」の存在は観光業の商業的成功とそれがもたらすブッシュマンの収入増加に欠かせない一方で,それがゆえに白人優位の構造が維持されたり,ブッシュマンの観光業への自由な関わり方と彼らの所得向上や意思決定の範囲の拡大が両立しにくいなど,多くの矛盾を抱えていることも示された。