アフリカ研究
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特集:アフリカにおける「住民参加型観光」―「生活の場」からの再検討―
「万能薬」ではなく「サプリ」として
─ケニア南部に暮らすマサイにとっての観光の意味─
目黒 紀夫
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2017 年 2017 巻 92 号 p. 83-94

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抄録

ケニア南部のアンボセリ地域はアフリカを代表する野生動物観光の目的地である。そこで国際NGOが2000年代に開始した「観光保全エンタープライズ」は,1990年代以降のアフリカで広まる新自由主義的な「保全―開発―観光の連環」の典型として研究されてきた。しかし先行研究は,プロジェクトは目標として掲げる「保全―開発―観光の連関」の実現を目指す,保護区には観光宿泊施設が建設される,住民は契約を順守するといった制度的な前提を疑ってこなかったため,開発援助プロジェクトをめぐる言説と実践のズレや新自由主義的な制度に反する住民の態度を見過ごしてきた。住民はその時々の状況と必要に応じて柔軟に選択するべき選択肢の一つとして観光を捉えており,そこにおいて観光は一時の服用で全ての問題を解決して万全の状態をつくりだす「万能薬」というよりもむしろ,服用する種類を選択したり量を調整したりすることで好調を維持していくことを目指す副次的な「サプリ(栄養補助剤)」に例えられるものと考えられる。ただし,アンボセリ地域は土地権利や生計活動の点でアフリカの中でも特徴的であり,こうした結論が一定の地域性の上に成立している点に留意する必要がある。

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© 2017 日本アフリカ学会
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