アフリカ研究
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論文
エチオピアにおける食料安全保障政策と激変する農牧民の生活
─大規模開発事業との関係に注目して─
佐川 徹
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2019 年 2019 巻 95 号 p. 13-25

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抄録

エチオピア連邦民主共和国では,新たな食料安全保障政策の一環として,2005年から「生産的セーフティネット・プログラム」(PSNP)が実施されている。同プログラムは,深刻な飢饉に何度も直面してきたエチオピアが採用した大規模な社会的保護政策として,一定の評価を受けている。ただし先行研究の多くは,PSNPと他の政策との関係やその政治的作用に十分な注意を払っていない。本論ではまず,同国西南部の農牧社会において,政府が推進する大規模な開発事業の実施により,地域の食料確保のあり方が,自給から外部依存へと劇的に変化したことを示す。つぎにPSNPがそれらの事業といかなる関係をもちながら進められているのかを検討する。とくに,地方行政のレベルで,各行政区にPSNPの登録者数を割り当てる際にいかなる要因が作用しているのかを分析し,PSNPがつよい政治的な意図をともないながら運用されていることを明らかにする。そして,PSNPと大規模な開発事業は,相互に作用しあいながら住民の政府への従属をつよめ,また住民間に「開発事業を受容しPSNPの配分を受ける者/開発事業に異を唱えPSNPの配分を受けられない者」という分断をもたらしていることを指摘する。

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© 2019 日本アフリカ学会
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