アフリカ研究
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タンザニア・マテンゴ高地の集約的農業をめぐる社会生態
加藤 正彦
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2001 年 2001 巻 59 号 p. 53-70

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抄録

タンザニア南部の山地に居住するマテンゴ人の集約的農業について, その構造と動態を社会生態的に分析した。マテンゴ人は, 父系出自の居住集団が「ンタンボ」と呼ばれる山の尾根域を保有し,「土造り」をともなう在来農法と, コーヒーの「木造り」をセットとして集約的農業を発達させてきた。各世帯の耕地面積には大差はないが, コーヒー生産は資本集約的な性格をもち, コーヒー収穫量の世帯間のばらつきは大きい。構造調整政策が本格化し, 厳しい経済環境となった90年代, マテンゴ高地の農民の多くは, 在来農法による畑地への補助的な化学肥料の投入は持続してサブシステンス用の食糧の確保を優先し, コーヒーの木の手入れは怠らないが, 状況に応じてコーヒーの多肥栽培への投資を調整する戦略, つまり「サブシステンスでの待機」でしのいだ。それは, 70年代の後半から急成長するコーヒー栽培の時期も含め, マテンゴの農業生産と生計維持をめぐる基本的な性格を示している。そしてマテンゴの集約的農業は, 未開墾地への人々の移住や, ンタンボを原型とする慣習的な土地保有制度によって, 土地の私有化や所得格差の拡大に過度に傾斜することなく, 現在まで保持されてきた。

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