アフリカ研究
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海岸植生に依存するラクダ牧畜
スーダン領紅海沿岸ベジャ族の放牧地に関する事例分析から
縄田 浩志
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2002 年 2002 巻 60 号 p. 105-121

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抄録

これまで, アフリカの乾燥熱帯沿岸域にみられる伝統的な牧畜システムを解明した現地調査はほとんどおこなわれていない。本稿の目的は, 塩生植物やマングローブからなる海岸植生に対する家畜の摂食行動と, 家畜間にみられる放牧地の利用形態の違いに焦点をあてることで, 海岸植生に依存するラクダ牧畜の実態を具体的に浮き彫りにすることにある。
調査対象とするベジャ族は, ラクダ, ヤギ, ヒツジ, ウシ, ロバを飼養している。スーダン領紅海沿岸のアゲタイ村周辺においてそれらの家畜のために利用される放牧地を (I) 海岸平野にある草地, (II) 洞れ川の地表流の終着地にある灌木地, (III) 塩性湿地の内陸よりの周縁に見られる灌木地, (IV) 海岸線近くの塩性湿地, (V) 潮間帯のマングローブ群落, (VI) 隆起サンゴ礁島にある草地・灌木地, という6つのゾーンに分類した。
家畜の摂食行動と放牧地利用の季節性を分析した結果, (1) 各ゾーンの主要な植物が属する科やその生活形, 塩生植物か否かといった特性に応じて, 家畜の種ごとに放牧地の利用形態に差異がみられること, (2) ラクダの摂食は, 灌木地に生育するアカザ科を中心とした半灌木の塩生植物と, 常緑のマングローブの枝葉に大きく依存していること, (3) ラクダによってのみ利用可能である草地・灌木地が, 隆起サンゴ礁島に存在すること, の3点が明らかになった。
以上のような分析から, 乾燥熱帯の沿岸域における人間-家畜-植物関係の特徴として, 塩生植物やマングローブといった海岸植生に依存し, かつ, 他の家畜がアクセスできない隆起サンゴ礁島で摂食することができるラクダを中心にすえた牧畜システムが発達していることが指摘できる。

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