アフリカ研究
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社会主義政策と農民-土地関係をめぐる歴史過程
エチオピア西南部・コーヒー栽培農村の事例から
松村 圭一郎
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2002 年 2002 巻 61 号 p. 1-20

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抄録

1974年にはじまるエチオピアの社会主義体制への移行は, 周辺農村社会に大きな変動をもたらした。本稿は, 中央からの強い介入を受けてきたエチオピア西南部のコーヒー栽培地帯を事例に, デルグ政権 (1974-91) の社会主義的な農業・土地政策が農村部に与えた影響を実証的なデータにもとづいて検討していく。なかでも農民と土地との関係がいかに変化してきたか, ということに注目した。
コーヒー栽培農村が経験してきた歴史をたどると, デルグ政権の政策は, 農民がそれまで柔軟に利用していた土地を厳格な国家体制に組み込んだだけでなく, 農民たちを社会主義的な組織に編入・統合しようとするものであった。また土地所有動態の分析から, 20世紀初頭からはじまっていたさまざまな民族の流入と定着といった現象が, デルグ時代に加速度的に進行してきたという事実が明らかになった。この周辺地域からの大量の移民流入は,土地への圧力を高め, 土地不足という新たな問題を引き起こしただけでなく, 解体されたはずの不安定な小作制を現在でも存続させる要因ともなっている。国家政策の強い介入にもかかわらず, かならずしも中央の政策の意図通りに農村社会の変容が進展してきたわけではない。農村社会の直面する動態的な変容過程を理解するためには, そうした国家の制度的枠組みを超えた地域独自の動きに注目していく必要がある。

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