アフリカ研究
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敵の血は甘い
エチオピア西南部クシ系農牧民ホールの戦いのイデオロギー
宮脇 幸生
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2005 年 2005 巻 66 号 p. 13-30

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抄録

本稿は, エチオピア西南部クシ系農牧民ホールにおける, 戦いのイデオロギーについて検討する。ホールにおいては, 戦いとは, 敵を殲滅するというよりも, 敵を殺してその豊饒性を獲得する行為であると考えられている。敵を殺す行為には, 多くのタブーと儀礼が必要とされる。豊穣を獲得する儀礼の中心は, 切除した敵の性器と仔牛の交換から成っている。殺人者はその友人に敵の性器を切ってもらい, それを仔牛によって買う。ついで第三者が殺人者から, 儀礼的な戦闘で彼を殺すことで,その性器を仔牛によって買い取る。その性器は, 購入した第三者の母方オジに, 仔牛と交換に与えられる。こうした交換の連鎖を検討すると, 最初の敵対的関係と最後の親族間の関係は連続的であり, 敵と殺人者の間にも, 強い絆が存在するというホールの考え方が浮かび上がる。敵とホールの間にある敵対的な絆は, ホールのリネージ間における女性の交換である婚姻の儀礼を検討すると, よりはっきりとする。婚姻の儀礼は, 殺人の儀礼と構造的な対応関係を示している。このイデオロギーは, 民族間の境界が相互浸透的なこの地域の社会で, 秩序ある共同体の境界を形成する機能を持ち, 国家支配の後は, 民族的アイデンティティを維持する機能を果たしていたのではないかと考えられる。

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