アフリカ研究
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カラハリ狩猟採集民における生業と分配
危機に対する戦略としてのモラル・エコノミ
池谷 和信
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2007 年 2007 巻 70 号 p. 91-101

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抄録

アフリカ南部のカラハリ砂漠に暮らす狩猟採集民サンの社会は, 平等主義社会の典型であるといわれる。本稿では, 危機に対する戦略としてのモラル・エコノミーという枠組みから, 市場とのつながりをもちつつも, 生存維持的志向を持つサンの経済行動の特質を把握する。具体的には, サンの分配の地域性を把握すると同時に, ボツワナ中部のガナに焦点を当てることで, 彼らのなかでの分配の実践や貯蔵方法を生業別に報告する。その結果, 獲物や収穫物の所有者は, 生業ごとにあらかじめ緩やかなルールによって決められていること, 狩猟採集のみならず農耕牧畜においても「持つ者」から「持たざる者」への分配システムが働いていること, とりわけ農耕では収穫時期の畑の近くにキャンプが移動してきたあとに収穫物が分配されていたことが明らかになった。また, 彼らは, 自給用に加えて, 交易用の肉を獲得するための商業狩猟をおこない, 肉の平等分配という原理を維持しながら, 食糧用と交易用の肉とに区別していた。さらに, 本稿の事例とアフリカ (焼畑) 農民の生業とを比較するなかで, ヤギ飼養の重要性が両者のあいだで共通していた。

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