アフリカ研究
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「人間の安全保障」とアフリカのエイズ
若杉 なおみ
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2007 年 2007 巻 71 号 p. 73-84

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抄録

健康であることは「人間の安全保障」の実現に不可欠であり,その手段とも位置づけられる。しかし現実の世界では,健康の課題が個人の問題ではなく,社会自体の課題として常に真剣に取り組まれるわけではない。たとえばアフリカのエイズは,事態の深刻さが否認され,長い間辺縁に押しやられて来た。独立後,構造調整を経て「失われた10年」と言われるまさに1980年代のアフリカで,HIV感染症・エイズが本格的な勢いをつけ始めていたのだが,初期コントロールはほぼ不在であった。エイズのような公衆衛生上の大きな危機の回避と克服には,個人レベルの脆弱性と,国家を含む社会全体の脆弱性の減少が必要である。エイズという感染症に対する「社会の脆弱性」はそれまでのアフリカの開発の結果であるとも言え,拡大する貧困,保健・教育の後退と縮小,ジェンダー課題の放置リプロダクティブヘルスの遅れなどがすべて強く関連している。しかしエイズが人間の安全保障の課題として取り組まれ始めた2000年以降,国際的支援とアフリカ諸国の立ち上がりは顕著であり,わずかながら明るい兆しが見られ始めている。

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