アフリカ研究
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農業開発と農業融資事業をめぐるセイフティ・ネット
セネガル河下流域における農民組合の活動と稲作振興策
高橋 隆太
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2009 年 2009 巻 74 号 p. 1-17

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抄録

本稿は, セネガル河下流域T村を開発プロセスが展開されている一つの「場」として措定し, その「場」におけるコミュニティと国家との協業関係とみなせるT村農民組合による農業融資の仲介事業と農地開発事業の実態を紹介し, その背景に想定されるセイフティ・ネットの存在とその変容を明らかにする試みである。セネガル政府は, 構造調整政策以降, 農家経営と農業開発の「責任」を農民に転嫁したものの, 稲作振興策によってコメと農業投入財の価格を実質的に調整するとともに, 農業融資事業の制度を確立して農業生産を支援しつづけてきた。とはいえ, 政府による農業支援のみによってT村の稲作が成り立っているというわけではない。T村農民組合の仲介する農業融資の返済プロセスからは, 相互扶助的なセイフティ・ネット機能が見出され, クレジット返済率向上の一役を担っているのである。そして, 農民組合による一連の農地開発事業による農業基盤の拡大は, 農民間の不平等を是正すると同時に, 結果的に日常的なセイフティ・ネットを変容させる現象をもたらした。本稿の事例分析を通して, T村の稲作は, 政府の役割とコミュニティの営為とのいわば協業関係のうえに成立していること, そして「後衛」に徹するばかりでない「前衛」的な側面をともなった農民とコミュニティのしたたかさを提示する。

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