アフリカレポート
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資料紹介
栗田 和明 ・ 根本 利通 編著 『タンザニアを知るための60章[第2版]』 東京 明石書店 2015年 354 p.
粒良 麻知子
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2016 年 54 巻 p. 93

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本書は、2006年に刊行された『タンザニアを知るための60章』の改訂版である。明石書店の「~(国)を知るための…章」シリーズの1巻目は、大学の授業で使われることを想定して作られたそうであるが、現在130巻以上刊行されている本シリーズは、各国の専門家によって幅広いトピックが詳述されており、大学生のみならず一般の読者向けの概説書となっているだろう。

本書には、1970~80年代からタンザニアを見つめ続ける2人の編著者と、改訂版で増えた計11人の著者らによって、国土、歴史、産業、都市と農村など、タンザニアの様々な側面が描かれている。改訂版で新たに加わった著者らによる章をいくつか紹介したい。水産資源に関する第18章には、2004年に映画「ダーウィンの悪夢」によって環境悪化が有名になったタンザニア北部のヴィクトリア湖の現状が書かれている。外来種のナイルパーチの移入によって大量絶滅した在来種のシクリッドが復活し、今は優占種になっているという。一時的な国際的関心がなくなった後も、環境が変化し続けていることを認識させられた。

製造業に関する第20章の「ヒマワリ大作戦」も印象的である。これはタンザニア中部のドドマ州で始まったヒマワリの有料種子普及活動の結果、ヒマワリの生産量が爆発的に増加したものの、生まれたばかりの買い付け業者が資金力不足で対応しきれず、価格が下落して採算がとれなくなってしまったという話である。タンザニア産業貿易省で政策アドバイザーを務めていた著者の「開発学や世銀の教科書には出てこない実業世界の難しさ」(p.111)という言葉には実感がこもっている。著者自らが、タンザニア西部カタビ州の村で、精霊の声を聞いて診断し、祈祷によって治療する伝統医から治療を受けた話(コラム3)も、実体験に基づいていて興味深い。

農村に関しては、編著者が調査を続けているニャキュウサ人社会に焦点をあてた章が多い。ニャキュウサ人はタンザニアの120以上の民族のうちの一民族に過ぎないが、章ごとに異なる側面が取り上げられているため、農村に住む人たちの生活を具体的かつ多角的に捉えることができる。

このように、本書ではタンザニアに様々な形で携わってきた著者らが、自然体で生き生きとタンザニアの今を伝えている。たびたび(しかし控えめに)出てくる「タンザニアらしい」「タンザニアのいいところ」といった表現からは、著者らのタンザニアへの思い入れが感じられる。タンザニアをよく知る人にとっても知らない人にとっても、新たな発見のある本だと思う。

粒良 麻知子(つぶら・まちこ/アジア経済研究所)

 
© 2016 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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