アフリカレポート
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資料紹介
高橋 基樹 ・ 大山 修一 編著 (シリーズ総編者 太田至) 『開発と共生のはざまで――国家と市場の変動を生きる――』 京都 京都大学学術出版会 2016年 ix+350 p.
津田 みわ
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2017 年 55 巻 p. 114

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2011年に始まった大規模科研費プロジェクト「紛争解決と共生に資するアフリカ潜在力」には、政治、社会、環境などと並び、開発と経済を柱とする研究ユニットがおかれ、同ユニットには開発、経済分野のトップランナーたちが集まった。このメンバーによってプロジェクトの最終成果の一冊として編まれ、「人々の開発と共生に向けた潜在力のありようを具体的な事例に基づきながら活写(p.4)」したのが本書である。援助プロジェクトの変化や資源分配における不文律のありようから、携帯電話の普及や労働市場の実態、教育政策から土地問題までと、多彩なラインアップを備えているのが本書のひとつの特徴であり、「次はどんな切り口か」との興味をそそる競作になっている。地域的にはケニア、タンザニア、エチオピア、ウガンダとアフリカ東部諸国が相対的に多くとりあげられており、これに西アフリカのニジェールと東南部アフリカのマダガスカルが並ぶ。

紙幅の都合で各章すべてに触れられないのが残念だが、ケニアの井戸で人々が作る待ち行列を仔細かつ精緻に観察、分析し、人々が何に価値を置くか――たとえば待ち時間そのものか、あるいは待ち時間の格差を減らすことか――にまで踏み込んだ第4章、ニジェールに生きるハウサの人々の生活論理を提示した第1章、タンザニアの路上商人たちの商慣行を照らし出す第7章、同国で狩猟採集民族とされてきた人々の生業選択を描いた第8章、「選挙後暴力」と呼ばれるケニアの国内紛争で大量殺戮が発生した地域を訪れ、住民の意識を探った第10章など、多彩な12章が並ぶ。本書にみえるこうした多彩さはまた、経済の側面から紛争と共生を分析しようとする際の射程の大きさ、ひいては経済・開発面での「アフリカ潜在力」の広がりを示しており、それがこの本に隠されたもうひとつのおもしろさといえる。

各章は著者たちがこれまで積み上げてきた膨大な研究へのゲートウェイ機能も果たしており、読者は、本文のみならず文献リストや詳細な注をたどって読書と研究を広げていくことができる。資源・市場・国家の3部構成のもとで多岐にわたる各論がすっきりと配置されており、通読したい読者にも十分な手掛かりが提供される。日本のアフリカ学の中で、経済や開発という切り口のもとで近年どのような研究が進んでいるかを一目で知ることのできる一冊である。

津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)

 
© 2017 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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