アフリカレポート
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資料紹介
重田 眞義 ・ 伊谷 樹一 編著(シリーズ総編者 太田 至) 『争わないための生業実践――生態資源と人びとの関わり――』 京都 京都大学学術出版会 2016年 360+ix p.
児玉 由佳
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2017 年 55 巻 p. 21

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本書は、「アフリカの潜在力」シリーズ全5巻の4巻目である。序章・終章を含めて12章あり、取り上げられている国は、タンザニア、ガーナ、ザンビア、ナミビア、カメルーンの5カ国である。アフリカの人びとが、日常生活において生じる利害対立に対して、どのように対立の深刻化を回避してきたのかを、具体的な事例とともに解明している。

本書は三部構成であり、各部ごとに異なるタイプの利害対立を取り上げている。第1部は民族関係についての考察である。土地資源の競合に対する牧畜民と農牧民の対応や、コーラナッツの長距離交易ネットワークを通じて構築された民族間の信頼関係が紹介されている。第2部では、住民同士の土地をめぐる対立についての解決方法を取り上げている。対話の積み重ねや、互助会、防火ネットワークのような組織形成を通して社会関係を構築することで、人びとは対立を回避している。その一方で、ザンビアの事例のように、相互扶助が結果的に経済格差をもたらしている場合もある。この事例の村では、トウモロコシ畑開墾のために富裕層が貧困層を雇用している。相互扶助の一環でもあるこの雇用によって村内での所得の平準化が一見起こっているようにみえる。だが、貧困層の労働提供によって富裕層側は畑をさらに開墾して富を蓄積している。村の中の経済格差は拡大しているのである。人びとの相互扶助の関係が危ういバランスの上で成立していることを示す興味深い事例である。第3部は、生態資源と生業との競合に関するものである。年に一度振る舞われるマルーラ酒のためにマルーラの林が維持されているナミビアの事例や、カメルーンにおける焼畑が生み出す生態的多様性、小型水力発電の利用を契機に森林保護を自発的に始めたタンザニアの事例が紹介されている。

本書は、アフリカの人びとの日常生活についての貴重な報告である。本書が伝えているのは、相互行為の積み重ねの結果「争わないための作法」が形成されていく過程の重要性や、「変化に対して適応的で柔軟な関係」の存在である。ただし、終章では、アフリカの政治・経済が直面している変化によって、これまで構築してきた関係性が岐路に立たされているという懸念にも言及している。陰惨な対立や暴力へと進んでしまう地域があるのも、アフリカにおけるもう一つの現実である。対立回避のための日常の実践が機能しない場合についての素朴な疑問がわき上がってくるが、それは本書の仕事というよりも、また別の分析視角から論じられるべきものであろう。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)

 
© 2017 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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