アフリカレポート
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資料紹介
Mick Moore, Wilson Prichard and Odd-helge Fjeldstad, Taxing Africa: Coercion, Reform and Development. London: Zed Books 2018 276 p.
粒良 麻知子
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2019 年 57 巻 p. 18

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2010年、開発途上国における課税についての政策研究を行うネットワークの中心として、国際税・開発センター(International Centre for Tax and Development: ICTD)がイギリスの開発学研究所(Institute of Development Studies)に設立された。本書は、ICTDの創設者らがこれまでの研究をもとに、アフリカにおける課税の現状を分析し、その課題と展望を論じた本である。

本書の冒頭で述べられているように、課税は面白くないテーマだと思われがちであるが、実際には民主主義やガバナンスに深く関係しており、アフリカの開発を考える上で重要な課題である。著者らによれば、近年の世界各国における経済格差の拡大により、課税の持つ富の再分配という機能への関心が高まっている。このような潮流を背景に、本書はアフリカにおける課税の現状を明らかにし、課税がいつどのようにガバナンスの改善につながるのかを探っている。

本書は全9章で構成されている。第1章で本書の概要が述べられたあと、第2章でアフリカの課税の歴史が概説され、この20~30年の間に政府歳入を開発援助に頼る時代から税収として調達する時代へと変わりつつあることが指摘される。第3~4章では国際的な税制のアフリカへの影響が分析され、多国籍企業やアフリカの富裕層による脱税に対して、アフリカ諸国政府がどのように対応しうるかが提案される。第5章は天然資源への課税、第6章は付加価値税や所得税などの国内の税制、第7章は非公式なものを含む小規模な課税についてまとめられている。以上の現状分析をふまえ、第8章で課税とガバナンスの関係、最終章で今後の見通しが論じられる。

評者が特に興味を持った内容を3点紹介したい。1つめは、アフリカは他の開発途上地域と比べて、GDPに対する税収の割合が決して低いわけではなく、アフリカにおける課税を単に政府歳入を増やすための手段ととらえるのは誤りであるという指摘である(第2章)。2つめは、アフリカにおける天然資源の徴税に関して、金・銅などの鉱物は、原油・ガスなどのエネルギー資源よりも圧倒的に税を徴収できておらず、そこには構造的な理由があるという分析である(第5章)。3つめは、課税によってガバナンスが改善されるのは、国の徴税機関が他の政府機関と連携しながら税制改革を行う場合や、国民の政府に対する交渉力が納税を通じて高められる場合であるという見解である(第8章)。これらを実現するのは容易ではないが、本書ではいくつかの成功例も挙げられており、今後、課税を通じてガバナンスが改善する国が増えることを期待したい。

粒良 麻知子(つぶら・まちこ/アジア経済研究所)

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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