アフリカレポート
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資料紹介
小寺 敦之 編 『世界のメディア――グローバル時代における多様性――(東洋英和女学院大学 社会科学研究叢書6)』 横浜 春風社 2018年 224 p.
岸 真由美
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2019 年 57 巻 p. 19

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グローバル化により普遍化・均質化が進むというが、国や地域が持つ多様性はそう簡単にはなくならない。メディアもそのあり方は多分に国や地域の政治体制や経済政策に左右される。本書は各国のメディアを比較して優劣を論じるのではなく、異なる歴史や社会、経済政治的な体制がその国のメディアのあり方をどう作り上げたかを考察することで、読者が自らの社会のメディアのあり方や普遍的とされる価値(例えば「表現の自由」や「報道の自由」)を捉えなおすことができる、相対的な視点を提供することを目指す。アメリカ、中国、韓国、オーストラリア、インド、コロンビア、ラオス、カタル、ナイジェリア、ロシア、EUの11カ国・地域が取り上げられており、12名の研究者が執筆を担当する。

ここでは紙面の都合上、本書がカバーする国のうちいくつかの国のメディアを簡単に紹介する。「ボリウッド」で知られるインド映画は、ラジオとテレビが国営で情報統制が強かったことから庶民の娯楽メディアとして発展した。音楽と舞踏によって物語をつむぐ伝統演劇の様式から発展したミュージカル風のインドの映画はヒット曲を生み出すメディアでもあった。ナイジェリアの活字メディアは植民地期の教会コミュニティから始まったため、今でも新聞の死亡通知は単なる通知ではなく、家族や親族、友人らが故人をしのぶ追悼公告が数多く掲載される。また連邦制をとるナイジェリアでは州政府の独立性が強く、初期は各州政府が開設したテレビ放送局が林立し、全国の放送網が整備されたのは、内戦からの復興期、「アフリカ諸国のオリンピック」として開催されたスポーツイベントが契機だった。中国のメディアの基本的使命は一貫して共産党の思想や政策を国民に宣伝することであり、言論の自由、表現の自由は厳しく規制されている。長い紛争を経験したコロンビアでは、メディアも中立的な立場ではいられず、不正の糾弾や被害者救済、国民和解のための活動を積極的に行う。

世界のメディアを広く取り上げた本はあまり多くない。アフリカのメディアをその歴史的・社会的背景から解説した本はさらに少ない。メディアを通してその国の特質を知ることができる本書は、メディア研究に関心を持つ初学者にとっても、地域研究に関心を持つ初学者にとってもお勧めの本である。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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