アフリカレポート
Online ISSN : 2188-3238
Print ISSN : 0911-5552
ISSN-L : 0911-5552
資料紹介
Nic Cheeseman, ed. Institutions and Democracy in Africa: How the Rules of the Game Shape Political Developments: Cambridge University Press 2018 381 p.
粒良 麻知子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 57 巻 p. 52

詳細

アフリカ諸国の政治は、独立以来、クライエンタリズムや新家産制などのインフォーマルな政治制度によって特徴づけられており、立法府や司法府、選挙制度などのフォーマルな政治制度は機能していないと論じられてきた。これに対し、本書は近年の研究で、フォーマルな制度がアフリカの指導者の決定に影響しており、アフリカ各国の民主化プロセスを説明する上で重要であることが明らかになりつつあると指摘する。そして、アフリカの民主主義を論じる上で、フォーマルな政治制度とインフォーマルな政治制度の相互作用に注目すべきであると述べている。本書で扱う制度(institution)は政治、経済、社会における相互作用を規定するルールを指し、議会や政党などのフォーマルな制度と、社会規範や慣習などのインフォーマルな制度に分けられる。

本書は、編者による序章に続き、各章を担当する著者らにより、13の政治制度(複数政党制の歴史、財産と土地制度、財政制度、憲法、警察、官僚制、政党、選挙、選挙制度、大統領任期、立法府、司法府、分権化)が論じられ、編者による最終章でまとめられている。各章の研究アプローチや内容は多様であるが、その特徴は以下の3つに分けられる。第1に個別の制度についての研究実績のある著者らが、その研究成果をフォーマル及びインフォーマルな制度という観点から説明している点(例えば2、3、4章)、第2に過去に発表した研究成果を新たなデータを用いて更新している点(例えば9、11章)、第3に特定の国の事例研究をもとに政治制度について論じている点(例えば6、8、12章)である。

序章は、1960年代以降のアフリカ政治研究の変遷をまとめた上でフォーマルな政治制度を重視する理由を論じており、読み応えがある。例えば、アフリカにおける政権交代の増加傾向は、大統領任期というフォーマルな制度を無視しては説明できないと述べている。最終章は、政治学の様々な研究アプローチのアフリカ研究への適用可能性を比較した後、ヘルムケとレヴィツキー(2016年)のフォーマル及びインフォーマルな政治制度の関係性の4類型を用いて、各章の議論がどの類型にあてはまるのかを整理し、今後の研究課題を提案している。

個別の政治制度についての研究をフォーマルな政治制度とインフォーマルな政治制度の関係性という枠組みで一つに統合したことにより、これまで軽視されてきたフォーマルな政治制度の重要性を明示した説得力のある一冊である。

粒良 麻知子(つぶら・まちこ/アジア経済研究所)

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
feedback
Top