アフリカレポート
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資料紹介
Scarlett Cornelissen and Yoichi Mine, eds. Migration and Agency in a Globalizing World: Afro-Asian Encounters London: Palgrave Macmillan 2018 xxiii+290 p.
佐藤 千鶴子
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2019 年 57 巻 p. 58

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本書は、アフリカ-アジア間の人の移動、そして移動先における移住者と受入れ(ホスト)コミュニティの関係性を扱った論文集である。TICAD(アフリカ開発会議)やFOCAC(中国・アフリカ協力フォーラム)のような両地域を結ぶ国際会議が定期的に開催され、中国のアフリカ進出が注目を集めている今日においても、両地域に住む人びとの個人レベルでの接点や関係性については、少数の例外を除きあまり知られてはいない。それゆえ本書にはパイオニア的価値がある。

本書には11の事例が収められている。最初の2論文ではオランダ帝国により、東南アジアから南アフリカへと奴隷や囚人として強制的に移動させられた人びとと彼らがもたらしたイスラームの歴史と現在が綴られる。第2部のアフリカにおけるアジアでは、アフリカ各地における新旧の中国系移民、タンザニアのインド系移民、そして人の移動を伴うものではないが、香港の武術(カンフー)映画と日本アニメの受容に関する論文が収められている。アフリカで出会った子供たちがカンフーのポーズで評者に立ち向かってきたことを思い出し、南アフリカの特に黒人の間でカンフー映画が人気を博した理由が知れて興味深かった。

中国系やインド系移民が19世紀以降、多くのアフリカ諸国に根を下ろしてきたのに対し、アフリカ人のアジアへの移動の歴史は浅く、その存在が注目されるようになったのは20世紀末以降のことである。だが、アジアにおけるアフリカをテーマとする第3部の4論文(中国の義烏におけるアフリカ人商人、インドのデリーに住むアフリカ人、カンボジア・リーグで活躍するアフリカ人サッカー選手、日本の反アパルトヘイト運動を通じた繋がり)を読み進めると、アジアの各地でアフリカ人が時に偏見や困難に直面しながらも、さまざまな形で活躍し、存在感を放っていることが印象に残る。

本書の事例は多岐に渡るが、編者らはアフリカにおけるアジア人、アジアにおけるアフリカ人の移住者とホスト・コミュニティの間での関係性を、「互いに距離を置いた共存(aloof coexistence)」という概念を用いて説明する。確かに、アジアからアフリカへの人の移動には長い歴史があるにもかかわらず、両者の関係性を扱った研究が少ないのは、それが互いに対する無関心によって特徴づけられてきたからなのかもしれない。だが今日、広州や義烏のアフリカ人商人は現地の中国人と繋がりを作っていかなければ、ビジネスを続けていくことはできない。アジアからアフリカへと人の移動が一方通行だった時代から、移動が双方向的になった今、両者の関係性が相互理解を深める方向へと変わっていくことを期待したい。

佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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