アフリカレポート
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Drew Fundenberg and Luis Rayo, “Training and Effort Dynamics in Apprenticeship” American Economic Review, forthcoming.
福西 隆弘
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2019 年 57 巻 p. 60

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ワーキングプアの若者の比率が世界で最も高いサブサハラ・アフリカ地域では、若年層の雇用は喫緊の課題である。各国政府は職業訓練の拡充に力を入れているが、アフリカでは伝統的な徒弟制も健在であり、職業訓練政策にも取り込まれている。非熟練の若者が職人のもとで働きながら技術を習得する徒弟制は、アフリカに限らず世界中で見られる制度であり、先進国においても医師や料理人、美容師の育成過程に徒弟制との共通点がみられる。訓練の方法として長く利用されてきた制度であるが、徒弟である間は低賃金で長時間の労働が強いられ、見習い期間が長期にわたることが多い。本論文は、徒弟制における労働量、与えられる知識の量と見習い期間の長さの関係を、理論モデルから検討している。

モデルでは、見習い期間中の弟子は親方の工房で報酬なしで働き、修了の際には独立に必要な知識が与えられることとなっている。見習い期間の長さとその間の労働量は親方が定めるが、弟子は気に入らなければいつでも辞めることができる。徒弟をやめた場合、(元)弟子はそれまでに得た知識を利用して収入を得るが、再び徒弟に戻ることはできない。いささか単純化されたこのモデルでは、弟子がやめない範囲で労働時間や見習い期間を長くすることが親方の利潤を最大化する。カギは、親方は弟子に与える知識を減らすことで徒弟をやめたときの弟子の収入を下げ、やめる誘因を減らすことができる点にある。弟子の知識が減ると工房の生産性が下がるが、見習い期間と労働時間を長く設定できるので、両者のバランスが取れる点で与える知識量を設定し、その結果、訓練は緩慢になる。

単純なモデルからいくつかの含意が得られる。まず、弟子に与える知識を減らした時に、知識を必要としない雑務が相対的に重要な工房では生産性があまり下がらない。したがって、そういう産業では労働時間や見習い期間が長くなりがちである。また、親方らの許しがないと働けないような環境(ギルドなど)では、弟子はやめても知識を利用して収入を得ることができないので、親方は素早く知識を与え、その後弟子を長く見習いとして据え置き工房で働かせる。最後に、徒弟制は資産のない若者が、労働を対価に親方に有利な条件で知識を買う制度だと説明し、もし十分な現金があれば、親方による搾取が防げることを示している。これらの含意は、アフリカにおける職業訓練政策として、徒弟制度の利用を考えるうえで有益だと感じた。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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