アフリカレポート
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時事解説
難民登録とインフォーマル・エコノミー――ウガンダの「カードゲーム」の実態と影響――
村橋 勲
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2019 年 57 巻 p. 80-86

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はじめに

2013年12月に勃発した南スーダンの内戦は5年が経過した。その間、幾度か和平合意が締結されたがいずれも破綻し、先延ばしされた合意の履行に向け、政府間の調整が続けられている。2018年時点で内戦期間中の犠牲者は推定約40万人[LSHTM 2018]、国内避難民は約190万人、周辺国に逃れた難民は約230万人とされている[UNHCR 2019a]。南スーダン国民の約3分の1が強制立ち退きを経験したことになる。

ウガンダは、現在、南スーダンやコンゴ民主共和国を含め周辺国から120万人以上の難民を受け入れるアフリカ最大の難民受け入れ国である[UNHCR 2019b]。ウガンダは、難民受け入れに必要な財源や資源は乏しいが、慣例的に「寛容な」難民受け入れを続けている。難民は、キャンプではなく、農村部に設けられた難民居住地(Refugee Settlement)に土地を割り当てられる。難民は、移動と就労が法的に認められており、農業によって自立を求められる。難民の受け入れに消極的な姿勢が国際的に広がるなか、主要ドナー、国連機関、エコノミストは、ウガンダの難民政策を「お手本」として称賛してきた。

2016年9月、移民と難民に関する「ニューヨーク宣言」が出された。その翌年6月、カンパラで、難民に関する「ウガンダ連帯サミット」が開催され、ここで、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、南スーダン難民危機を「ルワンダ虐殺以来最大の難民流出」と表現し、4年間で20億米ドルの支援をドナーに訴えた。しかし、ドナーからは3億5千万米ドルしか集まらなかった[UNDP 2017]。

本稿は、ウガンダの南スーダン難民支援の事例から、難民登録とそれに付随して生じるインフォーマル・エコノミーのプロセスを解明し、ウガンダの「寛容な」難民政策が持続可能なものであるかを問うものである。以下の記述は、筆者の主な調査地であるウガンダ中西部のキリヤンドンゴ難民居住地における聞き取り調査と、北部の難民居住地に関する調査報告や新聞記事に基づいている。

1. 難民登録とインフォーマル・エコノミー

最初に、難民登録と、それを逆用して難民が生み出すインフォーマル・エコノミー1に関する事例と議論について簡潔にふれておきたい。

難民登録は、国境を越えて不規則に流入する難民を特別な空間に固定し、統計を用いて人口を把握する統治の技法と言える。難民受け入れ国の当局、国連難民高等弁務官事務所(The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees: UNHCR)、国際NGOは、難民を管理、支援する目的で、難民をキャンプなどに集め、正確な難民数を把握し、それに基づいて難民の食糧や物資の支援に必要な予算を計上する。また、難民登録は身元証明のプロセスでもあり、家族証明の取得をもって難民は「裨益者(beneficiary)」として認められる。支援側は、より正確な難民数を把握する手法を技術的に確保しようとするとともに、定期的にヘッドカウント2を行うことで難民の移動を規制し、裨益者数の確定を行っている。

しかし、実際の難民キャンプでは、難民の側は、しばしば当局の管理をすり抜け、難民登録システムを利用して、より好ましい食糧や物資をより多く手に入れようと創意工夫をしていることが知られている。難民キャンプで広くみられる援助食糧の商品化は、その一例である。配給食糧は難民の食の嗜好に合わないことも珍しくなく、難民は、配給食糧の転売で得た現金で自分の欲しい食料や生活用品を購入している[Agier 2011, 152-153]。

より進んだ商品化の事例は、ケニアのダダーブ難民キャンプで報告されている。そこでは、ソマリ難民は、自分がキャンプを離れた後、残っている親戚により多くの配給を得られるようにと配給カードを預けておく[Horst 2006, 94]。この配給カードは、キャンプ周辺のケニア人が買い求めるため、キャンプ内やその周辺のマーケットでは、ソマリ難民と地元ケニア人の間で売買される。配給カードの商取引は、「カードゲーム(card games)」[Bulley 2014, 73]とも呼ばれ、難民の狡猾さを示す行為というよりは、「硬直した難民登録システムに対する難民の創造的な応答」[Horst 2006, 95]として議論されてきた。

従来の研究では、裨益者による配給カードの取引として「カードゲーム」が注目されてきたが、以下では、より多くの利益を得るために難民登録を操作することで生み出されるインフォーマル・エコノミーを「カードゲーム」と総称し、ウガンダの事例を検証する。

2. 南スーダン難民のウガンダへの流入と難民登録

2005年1月に第二次スーダン内戦が終結し、同年12月から本国への帰還事業が開始されると、ウガンダに留まっていた20万人弱のスーダン難民の大部分が帰国した。しかし、2011年7月の南スーダンの独立の1年半後に勃発した新たな国内紛争は、再び難民流出を引き起こした。

2013年12月のジュバにおける大統領警護隊に属するディンカ人兵士とヌエル人兵士の間で発生した銃撃事件と兵士による市民への暴行の後、ジュバやジョングレイ州から避難した人々がウガンダ側の南スーダン国境の町、エレグ(Elegu)に押し寄せた[村橋 2015]。彼らは、そこでヘッドカウントされた後、各地の一時庇護センター(Transit Center)や受け入れセンター(Reception Center)に行き、難民登録を行った。当初、難民登録は、ウガンダ首相府(The Office of the Prime Minister: OPM)とUNHCRが共同で行っていたが、2015年以降はOPMが担当するようになった。

南スーダンでは、2016年4月に反政府側の代表、リエック・マチャル(Riek Machar)元副大統領がジュバに帰還して、暫定統一政府が樹立されたが、その2カ月半後、南スーダン政府は、前年に締結した和平合意を自ら破り、反政府軍を一掃する軍事作戦を開始した。これは、ジュバだけでなくエクアトリア地方で勢力を拡大していた反政府軍と政府軍との武力紛争につながり、兵士による掠奪、殺戮そして飢えから逃れた人々が一斉に国境を越えた[REACH 2016]。女性と18歳未満の子どもがその8割以上を占めた[UNHCR 2018]。

この時、国境の複数の地点から一度にウガンダに難民が入域したため、国境にある数ヶ所の集合地点でのヘッドカウントは不可能となり、各難民居住地でヘッドカウントと難民登録が実施された。ウガンダ政府は、ビディビディ(Bidibidi)、パロリンニャ(Palorinya)、パラベク(Palabek)、インヴェピ(Imvepi)に新たな難民居住地を開設した(参照)。キリヤンドンゴでは、難民の多重登録や、ウガンダ人の「偽装」登録を防ぐために指紋確認を用いた生体認証が導入された。

ほとんどの南スーダン難民は、当日か数日の間に難民認定を受け、A4サイズ一枚の家族証明と名刺サイズの配給カードを与えられる3。家族証明は、家長1人と扶養家族の顔写真が貼り付けられた難民の身元証明であり、記載された「住所」に応じて、食糧と物資の配給場所が決められる。月一回、配給される食糧は、穀物、マメ、CSB4、食用油、塩であり、その分量は、世界食糧計画(World Food Programme: WFP)が試算した適正なカロリー数や栄養価に基づき、家族数、難民の居住年数といった基準に応じて決められている。

[UNHCR(2019)より筆者作成]

3. 援助食糧の商品化

援助食糧はWFPによって売買が禁止されているが、ウガンダの難民居住地では、援助食糧の商品化は広く行われている。難民が援助食糧を商品化する背景には、好みに合わない配給食糧、不十分な配給量、他の食料や生活用品の不足といったことがある。

キリヤンドンゴでは、援助食糧がトウモロコシの粉末から赤いモロコシの穀粒に変わったことで、その商品化が始まった。この時、ディンカ難民の多くが、赤いモロコシを食べ慣れていない、製粉にお金がかかるといった理由で受け取りを拒否した。WFPは、その後もモロコシの配給を続けたが、数カ月後にウガンダ商人が、モロコシをトウモロコシよりも高い価格で買い取り始めると、難民のほとんどがモロコシを転売するようになった。

ウガンダ商人は、転売されたモロコシをカンパラに運び、買い取り価格の約1.5倍の価格で取引する。モロコシは、工場で生産されるビールの原料などに加工されるという。売却価格は変動が激しく、しばしば難民と仲買人との間の激しい交渉をともなうが、難民にとっては数少ない現金収入のチャンスであり、商人にとっても割の良い取引である。また、警察やUNHCR職員が、ほぼ黙認していることもあり、「転売ビジネス」は常態化した。

援助食糧の商品化は、不安定なフードセキュリティとも関連している。2015年にキリヤンドンゴで難民を対象に実施されたあるNGOの調査では、回答者の65%が、食料不足と回答している[Jakani 2015]。食料不足は、配給の遅延、南スーダンにおける極度のインフレに伴う本国からの送金の減少、資金不足による食糧援助の削減、難民数の増加に伴う家族あたりの土地面積の削減5といった複数の要因が重なっている。

4. 難民登録と違法経済

2016年半ばに始まった前例のない規模の南スーダン難民の流入は、すでに多くの難民を抱えていたウガンダにとって資源やサービスをめぐる難民と難民受け入れ社会6との間の緊張関係を生み出すだけでなく、ずさんな難民管理による違法経済をも生み出した。

これが露見したきっかけは、2018年2月に国連常駐コーディネーターが、「カンパラ連帯サミット」で集められた資金の濫用と難民数の水増しなどに関する内部告発に応じて内部調査を行うと発表したことだった[Sserunjoji 2018]。「難民スキャンダル」と呼ばれたこの事件の後、イギリス、ドイツなど主要ドナーのいくつかは、説明責任が十分に果たされないかぎりウガンダの難民支援に対する資金を凍結すると発表した[Okiror 2019]。この事件後、OPMの4人の職員が停職となり取り調べを受け、UNHCRウガンダ代表は後任に引き継がれた[Schlein 2018; Draku 2018]。

2018年4月、UNHCRは1100万米ドルを拠出して新たな生体認証システムを導入し、OPMとともに、すべての難民居住地でヴェリフィケーション(verification)7を実施した。ここで、指紋と瞳孔による生体認証が行われ、WFPはその情報をICチップ入りの配給カードに反映して、受給者の管理を徹底しようとした。

8カ月のヴェリフィケーションの結果、ウガンダ全体の難民数は2017年末時点の140万人から115万人、南スーダン難民は、20万人減少して78万人となった[UNHCR 2019b]。この結果に対し、OPM、UNHCR、WFPは、「南スーダン難民の急速かつ大規模な流入のために登録システムが追いつかず、2016~17年にかけて正確な難民数の把握が困難であった」という共同声明を出した[WFP 2018]。

2018年11月、国連の内部監査部が2016~17年にかけての資金運用に関する内部監査報告書を提出すると、UNHCRウガンダの責任が問われるさらに大きな不正の実態が明るみに出た。そこには、水、トラック輸送、道路補修への多額の使いこみ、「架空」の公務員への支払い、配給物資の調達における不正などが含まれている[UNOIOS 2018]。

筆者の聞き取り調査によれば、キリヤンドンゴでは、2016年後半からOPMの役人が難民登録の際に、難民に賄賂を要求するようになった。ここでは、2016年8月に難民受入れが中止され、その後に来た申請者はビディビディに移送されることになっていたが、ほとんどの難民はビディビディの劣悪な環境と治安をおそれ、キリヤンドンゴに留まることを希望した。その際、OPMの役人は、賄賂の支払いに応じた者に限りキリヤンドンゴでの登録を認め、拒否した者をビディビディへ移送した。

2017年に入ると、キリヤンドンゴで多重登録が頻繁に行われるようになった。ある難民によれば、多重登録は、家族証明に添付された家長の写真だけを別人の写真ととりかえ、登録し直すというやり方で行われた。OPMの役人は、家族1人あたり10万ウガンダシリング(約3000円)の支払いを求め、登録を繰り返することで配給カードを10枚も所持する難民もいた。難民が、これを主体的に行ったのか、半強制的にさせられたかは不明だが、WFPによる配給量の削減が進められるなか、配給カードを増やして食糧不足を解消する狙いもあったとみられる。この頃、キリヤンドンゴから他の難民居住地に移って新規で難民登録を行い、配給カードを倍増させようとする難民も現れた。

2017年4月に設立されたパラベク難民居住地でも難民登録に関連する汚職が行われていた。ここではOPMの役人が、賄賂の支払いに応じない「難民」の登録を行わなかったため、難民登録に紐付けされて配布される配給カードをもたない「難民」は援助食糧や救援物資を受給できなかった[Ogeno and O’Byrne 2018]。

支援における慢性的な資金不足は、「伝統的な」現物支給から現金給付への移行を促した。2017年、アジュマニでは備蓄食糧の不足に対応するため、WFPは一部の人々だけに行われていた現金給付の対象をすべての難民へと広げた[The Guardian 2017]。2018年にはキリヤンドンゴでも、すべての難民が現物支給と現金給付のどちらかを選択できるようになった。

おわりに

従来の配給カードの取引をめぐる議論と同じく、援助食糧の商品化は、官僚的な難民登録システムや不十分な配給に対する難民の側の即興的かつ創造的な対処として理解することは可能である。しかし、ウガンダの事例は、支援側と裨益者の双方がゲームの「プレーヤー」となり交渉と葛藤を繰り返す、より錯綜した状況を示している。

ウガンダの「寛容な」難民受け入れ政策は、難民の存在を国際社会に積極的に示すことで、国際社会から援助を引き出し、それを難民だけでなく難民受け入れ社会へも資源や利益を配分することで可能になってきた。長らく難民を受け入れてきたいくつかの県では、インフラ整備が進み、社会サービスが充実し、雇用が拡大したため、難民は負担ではなく恩恵とみなされる傾向にあった。ただし、2016年7月以降の大規模かつ急速な南スーダン難民の流入後、ウガンダ政府だけでなく難民受け入れ社会の間にも、終わりのみえない難民流入が将来的な負担につながるのではないかという懸念が広がった。

2018年2月に「カードゲーム」が露見した後、ウガンダ政府とUNHCRウガンダ事務所は、資金の運用について国際社会から説明責任を求められるようになった。これまで「お手本」とされてきたウガンダの難民政策はその持続可能性に疑問が投げかけられるようになり、ウガンダの難民支援に対するドナーからの資金は大幅に減少した。難民登録をめぐるずさんな管理と不正行為は、支援から排除される多くの難民を生み出したばかりでなく、結果として支援プログラムにおけるさらなる資金不足をもたらした。それにより、継続的な支援の実施は困難になり、難民も難民受け入れ社会の人々もわずかな支援だけを頼りに自立を強いられるという状況に直面している。

本文の注
1  インフォーマル・エコノミーとは、経済人類学者のハート(Hart)によれば、フォーマルな雇用契約は結んでいないが、公的な制度の下で生み出されている合法、非合法を含むさまざまな現金稼得活動を指す。法で定められた労働基準や社会保障制度が適用されない労働形態であり、自営業、季節労働者、日雇い労働者、家事労働者などが含まれる[Hart 1973]。

2  難民を一人ずつ集めて行われる人口調査。人口を把握するだけでなく、国籍、性別、年齢、場合によっては出身民族など支援プログラムに対するドナーの財政支援に必要な統計を作成するために実施される。

3  現在、南スーダン人は、プリマファキエ(prima facie)の審査基準(一見したところ難民と認定できるとする判断手法)が適用されており、簡便な手続きで難民審査が行われる。

4  Corn Soya Blend。トウモロコシと大豆の粉末を混ぜ合わせた栄養強化食糧。

5  キリヤンドンゴでは、2013年末時点、家族当たりの土地の割り当て面積は100メートル×50メートルであったが、現在は他の難民居住地と同じく30メートル四方になっている。

6  難民居住地が置かれたウガンダの地域社会。ホストコミュニティと呼ばれ、準郡(Sub County)や郡(County)を指すことが多いが、県(District)を指すこともある。

7  難民キャンプや難民居住地における難民の所在を確認するために数年ごとに行われるヘッドカウント。

引用文献
 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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