2020 年 58 巻 p. 85
アフリカ大陸最大の熱帯林を有するコンゴ民主共和国(以下コンゴ)には、アフリカ大陸最大の流域面積を誇るコンゴ川とその支流が縦横に流れる。そのど真ん中の村で調査を続けてきた人類学者たちが、住民の生計向上を目指して大型船を借り、住民とともに商品を載せて街に向かう。この「水上輸送プロジェクト」が本書の中心テーマである。
コンゴ中央部は、内戦(1997~2002年)から甚大な影響を受けた。流通インフラの破壊により、森のなかに住む人々は町まで数百キロを徒歩や自転車で移動し、生産物を販売して暮らしを立てる過酷な生活を強いられている。内陸部地域経済の立て直しのためには、生産面よりも流通面の支援が必要だ。こうした問題意識に基づいて、このプロジェクトが企画された。4人の編者のうち、木村は1980年代からこの地で調査を続けてきたベテランである。木村に導かれてコンゴに入った残る3人の中堅・若手研究者がプロジェクトを遂行し、本書の中心的な語りを担っている。
コンゴは魅力的な国だ。しかし、万事簡単には進まない。本書ではコンゴの魅力と難しさが入念に書き込まれ、フィールドワークの楽しさと苦労がいきいきと伝わってくる。こうした濃厚なフィールドワーク、人々との関係構築は、誰もができることではない。私はこの国を少しは知っているが、こうした仕事をする能力はない。ページを繰りつつ、軽い嫉妬を覚えた。
本書は研究書の体裁を取っていないが、開発のあり方について考えさせられる内容になっている。人々との関わり方や自らの役割など、3人には考え方の違いがある。その違いや迷いを正直に書き込みながら、プロジェクトの準備から終了までが描かれる。このプロジェクトが村人にどのような影響を与えるのかまだわからないが、3人が今後も村人に寄り添ってこの地域に関わり続けていくなかで、答えが見えてくるのだろう。
今後の課題ということであろうが、地域商品経済について、歴史的な説明がもう少し欲しいと思った。熱帯林のなかに位置する村であっても、植民地化以前から商品流通が存在し、それが時代を経て変化してきたと考えられる。どのような歴史を経て、数百キロも徒歩で移動して商品を売るような現状に至ったのか。それがクリアになれば、プロジェクトの意義がより明確になるのではないだろうか。
武内 進一(たけうち・しんいち/アジア経済研究所・東京外国語大学)