アフリカレポート
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資料紹介
Somik Vinay Lall, J. Vernon Henderson, Anthony J. Venables, Africa’s Cities: Opening Doors to the World. Washington D.C.: World Bank 2017 162 p.
福西 隆弘
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2020 年 58 巻 p. 93

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この報告書は、タイトルが示す通りアフリカの都市が抱える課題を分析したものであるが、本書の射程は都市問題にとどまらず、アフリカ諸国の産業構造変化について新しい仮説を提示している。先進国や新興国が経験した農業から製造業への構造変化には、同時に製造業が立地する都市への労働移動(都市化)という側面がある。この点から見れば、製造業の発展がみられないアフリカでは十分な都市化が進んでいないか、都市化に工業化が伴っていないかのどちらかということになり、都市化と産業構造に関する研究が生み出されている。本書は、その両方がアフリカの都市で生じる理論的なメカニズムをVenables(2017)に依拠して説明し、アフリカの都市の多様な空間データを提示して、理論モデルの妥当性をサポートしている。本書が注目に値するのは、都市賃金が高いというアフリカの都市に広くみられる特徴が理論モデルで再現される点にある。

このモデルでは、都市では製造業とサービス業が、農村では農業が立地すると仮定するが、輸入品と競合する製造業は、賃金が一定以下の水準にならなければ都市に立地しないと想定する。したがって、都市では人口増加とともにまずサービス業が発展すると考えられ、サービスの供給が成長するにつれて需要を超過し価格が低下する。その結果、サービス業で働く都市労働者の賃金が低下しはじめ、ある水準を下回ったところで工業化が始まる、というように産業構造の変化が描かれる。このプロセスで農村から都市への労働移動が不可欠であるが、都市での居住コスト、特に土地利用に関するコストがアフリカでは高く、都市への労働移動が不十分なため、高い賃金が維持され製造業が成長しないと説明している。

本書が提示する都市の空間データは、アフリカの諸都市では中心部の建築物の密度が低く郊外に広がる傾向があること、また、交通ネットワークが貧弱なことを示し、著者らは都市が分断化されている(fragmented)と指摘している。その結果、労働者は長い通勤時間や劣悪な居住環境に悩まされており、企業は集積のメリットを生かせないことが強調されている。理論と実証の両面において、本書はアフリカの産業構造変化に関する研究の中でもっとも先行している研究成果だと思われる。長く議論されながら大きな進展がなかった分野であるが、今後の発展が期待される。

Venables, A.J. 2017. “Breaking into tradables: Urban form and urban function in a developing city,” Journal of Urban Economics, 98, pp.88-97.

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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