アフリカレポート
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資料紹介
Ulf Engel and Frank Mattheis, eds.,The Finances of Regional Organisations in the Global South: Follow the Money. Abingdon and New York: Routledge 2020 268 p.
箭内 彰子
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2020 年 58 巻 p. 94

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国際機構や地域機構に関する研究は膨大な量に上るが、途上国で構成される地域機構の財政を正面から取り上げた研究書はこれまでほとんどなかった。途上国地域機構の財源や支出といったお金の流れに関しては、継続的かつ信頼性の高い統計が少ない上に、アクセス可能なデータが非常に限られている。このため、編者が指摘している通り「ブラックボックス」化しており、研究対象としての重要性は認識されつつも、長年取り残されてきた分野である。本書はその困難なデータ収集に果敢に挑戦し、対象を安全保障に関する活動資金に限定しているとはいえ、途上国地域機構の財政について分析を試みた意欲作である。

本書で扱っているのは、アフリカの6つの地域機構――アフリカ連合(AU)、ポルトガル語圏諸国共同体(CPLP)、東アフリカ共同体(EAC)、アフリカ大湖地域国際会議(ICGLR)、政府間開発機構(IGAD)、南部アフリカ開発共同体(SADC)――と、アラブ、ラテンアメリカ、アジアの7つの地域機構(MERCOSUR、ASEANなど)である。アフリカに関しては資金協力を実施している域外国と地域機構の関係に注目した2つの章が加えられ、さらに序章と終章を合わせ、全部で17の章で構成されている。各章を通じて新たに得る知識が沢山あった。例えば、SADCの財源は70:30でメンバー国の負担が大きいが、ASEANの財源は6:94で圧倒的に外部からの資金が多いこと。そして、そうした財源比率となる背景には、各地域機構に特有の事情があること。あるいは、AUの分担金の割当て方法は国連の計算式に準拠しており、分担金の未払い国に対しては制裁を課す仕組みが規則上は整っていること、などである。

各章で執筆者は異なるが、それぞれが共通の問題設定に沿って考察した結果、地域機構間の比較検討が可能となった。終章では予算規模、財源、そして拠出金の分担方法に基づいた地域機構の類型化が試みられている。さらに、分担金の不払いという行動からその地域機構が十分な正当性を獲得していないのではという考察に繋がるなど、途上国地域機構の財政を分析することにより、地域機構に関する新たな研究テーマが掘り起こされていく。もちろん、本書で途上国地域機構の財政のすべてが解明できたわけではない。それは編者も十分認識しており、終章では今後研究されるべき課題が列挙されている。しかし本書は、ブラックボックスのふたを開け、その中の探索に向けて確実に歩みを進めたといえよう。

箭内 彰子(やない・あきこ/アジア経済研究所)

 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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