Africa Report
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Briefings
Socio-Economic Impacts of Border Closure in Nigeria to the Logistics and Petrol Black Market Price in the Republic of Niger
Shuichi OYAMA
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2021 Volume 59 Pages 1-7

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はじめに

2019年5月30日、アフリカ連合の加盟国55カ国のうち54カ国が参画し、アフリカ大陸自由貿易圏(African Continental Free Trade Area : AfCFTA)の設立協定が発効した。この協定発効はアフリカ諸国にとって、歴史的な第一歩だという紹介記事もある[Ethiopian Airlines 2019]。もし、これが実現すれば、高い経済成長を見込むことができる巨大市場の誕生となる。この協定の旗振り役がニジェールのモハマドゥ・イスフ大統領であり、2019年7月にニジェールの首都ニアメで開催されたアフリカ連合の総会では自由貿易圏の設立にむけて基本文書がつくられた。イスフ大統領には、自由貿易圏の設立を推進する「チャンピオン」という名も付けられている[New African 2019]。

その基本文書は、(1)アフリカ大陸自由貿易圏の内部では製品やサービスの関税をなくし、自由な貿易を推進すること、(2)90%の貿易品目の関税を2020年7月に即時撤廃し1、さらに10年から15年間の猶予期間のうちに、議論の必要な7%の物品についても関税を撤廃すること、(3) 自由貿易圏における非関税貿易障壁を常時チェックし、廃止すること、(4)アフリカで統一的な商取引、決済方法を可能とすること、(5)自由な貿易を推進すべく、貿易に関連する情報や統計データのオンライン公開をめざすという5本の柱からなる[African Union 2019]。アフリカにおける域内貿易では、信頼しうるデータ・情報が不足しており、アフリカのビジネス環境に悪影響があると考えられている。とくに、非関税貿易障壁に関する情報の欠如は大きな問題となっている。

アフリカ大陸自由貿易圏の設立協定の発効はアフリカ域内における貿易自由化という新たな時代の幕開けを感じさせる一方で、ニジェール国内では大きな問題が複数生じている。そのひとつは、深刻化するテロの問題、もうひとつはナイジェリアによる国境封鎖であり、そこに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが加わる。ナイジェリア政府は2019年7月にアフリカ大陸自由貿易圏に署名する[Jones 2019]一方で、その翌8月にはニジェールとの国境封鎖、そして10月にベナンとカメルーンとの国境封鎖を断行している。これらのナイジェリアの隣接国では経済や市民生活への影響が懸念されている。この時事解説では、ナイジェリアによる国境封鎖がニジェール国内の物流や市民生活にどのような影響を与えているのかを記述し、さいごにアフリカ大陸自由貿易圏の実現に立ちはだかる障壁を論じたい。

1. ナイジェリアによる国境封鎖

ナイジェリアとニジェールの国境線は1890年8月5日、イギリスとフランスによって線引きがおこなわれ、1898年と1904年、1906年に修正が加えられたのち、1910年の合意によって現在の国境線が確定している[USA Office of the Geographer 1969]。アメリカCIAのWorld Factbookのウェブサイトによると、ニジェールとナイジェリア間の国境線は長さ1608キロメートルにも及ぶ。

ナイジェリアによる国境封鎖は2020年1月まで継続するとされたが、その後、新型コロナウイルス感染者のナイジェリアへの流入と感染拡大があり、2020年11月時点で国境封鎖は継続されている。ナイジェリアから周辺国への物資の輸出入は禁止されている。この国境封鎖は、外国産の米の密輸入とナイジェリア産石油の密輸出の禁止とともに、周辺国からの違法ドラッグや武器の流入防止を目的としている。ナイジェリアでは税関や出入国管理当局、警察、陸軍が連携し、米の密輸入や安価なガソリンの密輸出に対する取り締まりが続けられている。

ナイジェリア産ガソリンの10~20%は密輸出されているが、その正確な数字はわからないのが実情である。2019年11月14日にはナイジェリアとニジェール、ベナンの3カ国は、共同での密輸の取り締まりや国境封鎖の解除にむけた話し合いがもたれている[Olowolagba 2019]。

こうした国境封鎖により、ナイジェリアでは輸出の不振と景気の悪化が危惧されているが、内陸国のニジェールでは食料や物資の不足、それにともなう物価の上昇が懸念されていた。ナイジェリア政府の国境封鎖は、物とサービス、人の自由な動きをうながすアフリカ大陸自由貿易圏の構想に逆行しているという意見も出ている。こうした動きによって、長年にわたり西アフリカで培われてきた取引慣行や信頼関係が破壊されることも不安視されている。

2. 国境封鎖による市民生活への影響

ニジェールでは、ナイジェリア政府がとった国境封鎖の翌月となる2019年9月には物資の不足や物価の上昇が懸念されていた。しかし、2020年3月時点においてニアメの市民によると、その影響はさほど大きなものではないという。ナイジェリア産の物資が流入しなくても、隣国のブルキナファソやガーナといったナイジェリア以外の近隣国から物資が入ってくるためである。2020年3月時点で、米(25キログラム)の価格は1万~1万3000 CFAフラン2、トウモロコシ(100キログラム)の価格は1万8000 CFAフランであり、例年の価格変動の範囲内である。筆者がニアメに滞在していた2020年3月、ナイジェリアからの大型トレーラーによる物流が途絶え、市内ではダンゴテ社のナイジェリア産セメント、プラスチック製のやかんや洗面器、バケツなどの在庫が底をついたが、そのかわりガーナ産の洗面器やバケツをみかけるようになった。

建築資材店の主人は、ナイジェリアの国境封鎖によりセメントや木材などの輸入がストップし、価格の高いコートジボワール産の木材、品質の悪いニジェール産に切り替える必要にせまられ、在庫の枯渇を嘆いていた。一方で、この主人によると、ナイジェリアからの大型トレーラーに満載された荷物のなかに銃器が隠され、ニアメ市内に入ってくる事件が続いていたため、国境封鎖によりナイジェリアからの武器の流入が止まることを願っていた。

ニジェールは、西アフリカ有数のタマネギの産地である。ナイジェリアとの国境封鎖によって輸出先がなくなり、価格が下落すると予想されていたが、タマネギの国内価格は上昇している。タマネギ100キログラムの庭先価格は2019年3月には1万~1万2000 CFAフランであったが、2020年3月には2万~2万3000 CFAフランへと2倍に上昇した。ナイジェリア産のタマネギがニジェールをはじめ近隣国へ輸出されなくなり、近隣国の需要を満たすべく、ニジェール産タマネギが出荷されるようになったためである。消費者にとってタマネギ価格の上昇は家計に響くが、栽培農家には多大な収入をもたらした。

農村部では11月から5月までの乾季のあいだ、多くの青・壮年男性が国内外の都市へ出稼ぎに行く。2012年ころまでは男性たちがアブジャやソコトなどのナイジェリアの各都市へ出稼ぎに行き、ビスケットやチョコレートを売ったり、革ベルトを売ったりする小商いに従事していた。その後、ボコ・ハラムによる爆破テロや警察・陸軍による取り締まりが厳しくなり、ナイジェリアへ出稼ぎに行く男性はいなくなった。

男性F氏は2020年3月にベナンの都市バラクより村へ戻ってきた。バラクでは国境封鎖のあおりを受け、景気が悪化し、人と金、物の動きが止まったと話した。1袋100 CFAフランの乳飲料を販売し、F氏は1袋の販売につき80 CFAフランを主人(ハウサ語 mai-gida)に渡し、20 CFAフランの利得を受け取っている。この利得から、4人の出稼ぎ男性がシェアしている家賃(月額500 CFAフラン)を支払い、日々の食事代(朝、昼、夜 各200 CFAフラン)をまかなう。昨年であれば、3カ月間の出稼ぎでトウモロコシ(100キログラム)を3袋購入し、村で待つ妻子に渡すことができた。しかし、景気の悪化により、出稼ぎ先の主人にニジェールへ戻るよう促され、バス代を渡されて村へ戻ってきた。

3. ガソリンの密輸入と闇取引価格の下落

ニジェール国内のガソリンとディーゼルの価格は政府の統制により、1リットルあたりガソリンが540 CFAフラン、ディーゼルは538 CFAフランと統一されている。ニジェール国内であれば、どこでもガソリンスタンドの燃料価格は同一である。仕入れるガソリンやディーゼルの品質はガソリンスタンドによって異なると消費者によって信じられており、欧米資本のガソリンスタンドの販売する燃料の品質は良く、エンジンに負荷をかけないと人気が高い。

ナイジェリア国境に隣接するニジェール国内の都市や農村では、道路脇に黄色の25リットルのプラスチック・コンテナーを目印に置き、ウィスキーのガラス瓶(750ミリリットル)に入れられてガソリンが販売されている(写真1)。正確には密輸入、密販売ということになるが、ニジェール国内の都市や農村では闇市場という感じはまったくない。ごくふつうに道路脇でガソリンが販売され、車のドライバーやバイクタクシーの運転手が停まって購入し、その場で給油する。

給油の際には、女性用ストッキングをフィルターにした漏斗を使ってゴミを取り除き、直接、車体に給油するか、あるいは、25リットルのプラスチック・コンテナーにガソリンを入れ、長距離走行にそなえる運転手もいる。2020年3月の時点で、道路脇におけるガソリン750ミリリットルの販売価格は275 CFAフランである(1リットルでは350 CFAフラン)。ガソリンスタンドにおける1リットルの公定価格との差は190 CFAフラン(35円)にもなる。このナイジェリア産ガソリンの安さが、消費者にとって大きな魅力となる。

写真1 ニジェール国内の道路脇で販売されるガソリン(2020年筆者撮影)。

「ガソリン輸入」に関係する運転手によると、その仕事は以下のとおりである。運転手は使用人(ハウサ語でyaro)であり、その背後には、かならず主人であるパトロン(ハウサ語でmai-gida)がいる。主人から運転手に資金が手渡され、運搬用の車が供与される。国境を越え、ナイジェリアのガソリンスタンドでガソリンを購入し、25リットルのコンテナーに給油する。コンテナーからガソリンが漏れないよう、サンダルを切ったゴムをふたに加工し、しっかりとふたを閉める。

ナイジェリアでのガソリン価格は1リットルで125ナイラ(210 CFAフランに相当)、ディーゼルは226ナイラ(385 CFAフラン)である。ガソリンスタンドではナイラの紙幣しか受け取ってくれないので、事前に両替商でCFAフランからナイラに両替しておく。インフレによりナイラの価値は下落しているが、CFAフランは安定しているので、なじみの商人が問題なく両替してくれる。1700 CFAフランで1000ナイラに交換することができる(2020年3月時点)。

ニジェール中南部のドゴンドッチの町を拠点にするドライバーの場合、プラスチック・コンテナーを満載した車を運転し、ナイジェリアのバチャカという国境町のガソリンスタンドにまで行く(図1)。この近辺ではナイジェリア国境付近に多数の未舗装道路があり、農村どうしを結んでいる。図1における国境線の長さは12.5キロメートルであり、52本の道路が平均240メートル間隔で国境線をまたいでいる。ナイジェリアで給油したドライバーは、検問のある国道1号線を避けてルートを選び、ドゴンドッチをめざす。もし、税関や警察に捕まった場合にはガソリンや車が没収されるが、そのときには主人が交渉に乗りだし、解決に導く。ガソリンと車両が没収されると、主人にとって大きな損害になるから、交渉に必死となるが、主人はうまく解決する。

(出所)Google Earthの衛星画像をもとに筆者作成。

トヨタ・ハイラックスなどのピックアップを使えば、100本ほどのコンテナー、つまり2500リットルのガソリンを一度に運ぶことができる。ナイジェリアのガソリンスタンドでの購入価格(リットルあたり210 CFAフラン)とニジェールでの闇販売価格(同、350 CFAフラン)の違いにより、一度の運搬で35万CFAフラン(6万4800円)の利益が入る計算となる。ドライバーは持ち帰ったガソリンを主人に渡し、それとの引き換えで手数料を受け取る。

こうしたガソリンの輸入は1980年代なかば、ちょうどサヘルの大干ばつの直後から始まっている。その当時、ドゴンドッチにはガソリンスタンドはなく、主人たちは車やバイクを所有していなかったため、使用人はロバを使ってガソリンをナイジェリアから運搬していた。使用人は主人からガソリン購入の資金を受け取り、自分のロバ1頭を連れて、行きには空のコンテナーとともにトウジンビエやササゲなどの農産物を運搬し、ナイジェリアの市場で販売する。そしてガソリンを購入して、ロバの背にコンテナーを乗せて、ドゴンドッチにまで戻ってきたのだという。オス・ロバ1頭の背で6本のコンテナーを積み、150リットルを運ぶことができた。ガソリンを持ち帰ると、使用人は主人より手数料を受け取った。ナイジェリア産の闇ガソリンはドゴンドッチでタクシードブルース(都市間を移動する乗り合いタクシー)むけに販売された。

2020年3月現在、ニジェール人、ナイジェリア人ともにガソリン運搬業に従事しているが、国境封鎖以降にはナイジェリア人が減り、逆にニジェール人の参入が増えている。ナイジェリアでの取り締まりが厳しくなっていること、物流が止まりめぼしいビジネスが減っていること、そしてニジェールの富裕層たちが手堅く収益を確保できるガソリン・ビジネスに注力するようになったためである。ナイジェリアからのガソリンの流入量が増えた結果、道路脇で販売される闇取引ガソリンの価格は2019年には400 CFAフランだったが、2020年3月には350 CFAフラン、11月には325 CFAフランにまで下落している。

今後の展望:アフリカ大陸自由貿易圏への障壁

ナイジェリア政府による国境封鎖の主目的は米の密輸入、ガソリンやディーゼルの密輸出、武器や違法ドラッグの流入を減らすことにある。幹線道路は税関や警察、陸軍によって国境が厳重に封鎖され、大型トレーラーやタンクローリーの往来は完全にストップしている。ニジェールとナイジェリアの双方とも、国境線から5~10キロメートルの位置に町が存在することもあり、国境線をまたぐように無数の未舗装道路が存在する。その道路を通行するピックアップや小型トラックの往来は多い。

国境の封鎖後にも、ナイジェリアとニジェールの間では、いまだ地元商人による日用品を運ぶ物流は続いている。このような物流にはハウサ商人たちが従事しており、人々の生活を支えている。桐越[2018]が明らかにしているように、西アフリカではハウサ商人が巨大な商業ネットワークを構築しており、商人どうし、商人と顧客、商人の主人と使用人とのあいだの信用関係にもとづき、前払いや委託販売、商品の大量輸送も頻繁におこなわれる。

ニジェール国内のガソリン価格が政府によって統制され、その価格がナイジェリアの販売価格よりも高値でありつづけるかぎり、ナイジェリアからニジェールに向けたガソリン運搬が止まることはないだろう。国境封鎖後に、むしろガソリンの流入量が増加し過剰となった結果、ニジェール国内の道路脇での販売価格は下落しつづけるという現地の人々の予想外の事態が生じている。

取り締まりが強化されると参入業者が減少し、価格は高騰すると筆者は予想していたが、逆にガソリンの闇取引価格は下落し続けている。これは、富裕層たちが収入を見込める堅調なガソリン運搬ビジネスに力を入れた結果だと考えられる。ナイジェリアが産油国で、国内向けに安価なガソリンを販売する一方、ニジェールがCFAフランの固定為替相場制をとり、ガソリンを統制価格で販売するという両国政府の政策ギャップによってガソリン運搬ビジネスが成立している。

西アフリカでは共通通貨をめぐる動きがあり、旧仏領西アフリカの通貨CFAフランに変わってECOの導入が宣言されている[正木 2019]。共通通貨の導入とアフリカ大陸自由貿易圏への政治的な動きは、今後もいくつかの波となって続くと予想されるが、西アフリカではテロ対策も喫緊の課題であり[加茂 2020]、サハラ砂漠を越えて北アフリカ、そしてヨーロッパにむけて移動する移民への対応も問題となっている。また、現在進行中である新型コロナウイルス感染症拡大の抑制も緊急に対応すべき課題となっている。アフリカ大陸自由貿易圏の実現にむけて、移民やテロ、感染症の対策をしながら、相互の経済政策を調整し、利害を認めあって国境線を開いていくには大きな障壁がある。

本文の注
1  その後、即時撤廃ではなく、5年以内の撤廃が認められることになった。

2  CFAフランは1ユーロ=655.957の固定相場であり、2020年10月時点で1円=5.4 CFAフランである。

参考文献
 
© 2021 Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization
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