アフリカレポート
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資料紹介
リジー・コリンガム 著 『大英帝国は大食らい――イギリスとその帝国による植民地経営は、いかにして世界各地の食事をつくりあげたか――』 松本裕訳 東京 河出書房新社 2019年 398+xlvii p.
津田 みわ
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2021 年 59 巻 p. 104

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本書は、「食べ慣れた食事を諦めようとしな」い(p.298)人間の日々の食事を手がかりに、16世紀から大西洋奴隷貿易の時代を経て20世紀の植民地的拡大に至る、大英帝国の歴史を再構成した大著である。世界の食卓で今も使われている食材や調味料が、どれほどイギリス帝国主義の影響でそれぞれの食文化のなかに持ち込まれたものであるかを本書は明らかにする。副題の醸し出す雰囲気にもあらわれているように、著者の筆致は皮肉なユーモアで貫徹しており、イギリスによる植民地化の描写から伝わってくるのは、現地の暮らしが破壊されていく過程への厳しい眼差しと、植民地主義への鋭い批判である。

植民地主義を取り上げた本は数多あるが、食べるものを手がかりにすることで、多くの読者にとって遠い世界の、別の時代の人々の願いや暮らしを想像しやすい形で提示したことが、この本の最大の特長だろう。ケニアの伝統食「イリオ」からイギリスのクリスマス・プディングまで、各章ごとに挿入される詳細なレシピも理解を助ける。

扱う範囲はイギリスはもとよりインド、ニュージーランド、中米、北米、アフリカへと世界大に広がる。アフリカを中心にした章としては、西アフリカへのキャッサバとトウモロコシ伝来を扱った第5章、大西洋奴隷貿易によるアメリカのアフリカ人奴隷たちの暮らしを食卓から捉え直した第8章、20世紀初めから2016年までを射程にイギリスの植民地化によってケニアの食が塗り替えられた様子を描いた第18章がある。また評者には、19世紀に東アフリカをはじめとする世界各地の英領に移動したインド人契約労働者の暮らしを、その食卓から描き起こした第15章も読み応えがあった。インド出身の人々が当時のアフリカで何を食べ、何を食べられずに毎日を暮らしていたのか――食事を入り口に、「移民」「奴隷」「契約労働者」といった名詞の背後にある人々の毎日の暮らしへと読者を誘う本書の真骨頂が発揮されている。

博覧強記の大著ゆえ、農業史の専門家である藤原辰史さんによる解説(pp.395-398)から読んでみるのもよいかもしれない。植民地支配の歴史や途上国の社会、文化に関心のある読者にはもちろん、料理好きな方にもぜひお勧めしたい好著である。

津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)

 
© 2021 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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