Africa Report
Online ISSN : 2188-3238
Print ISSN : 0911-5552
ISSN-L : 0911-5552
Book Reviews
[title in Japanese]
[in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 59 Pages 18

Details

現地社会をよくしようと外部者が行う取り組みが、現地社会の側から見ると、どこかずれている。本書は、筆者の素朴な問題意識を出発点として、西アフリカのサバンナ地域におけるジェンダー平等を目指す開発政策を再検討する。ジェンダー平等という開発目標は、人々の生活改善を前提としており、単に男女の役割を同じにすることではないはずだ。であれば、日常的な生計活動の営みと、そこでの男女の役割を明らかにしたうえで、何をなすべきかを考えなければならない。この常識的な発想に基づいて、本書はガーナ北部の西ダゴンバ地域で暮らす人々の生計活動とその変容を描き出す。

本書の真骨頂は、その「厚い記述」にある。人々が何を植え、何を食べているか、どのように住んでいるか、仕事をどう分担しているか、樹木は誰のものか、その実を誰が拾うのか、作物は誰が収穫し、誰が手伝うのか、などなど、日常生活の一つひとつが具体的に把握できるよう記述されている。長期のフィールドワークに加えて、歴史史料がふんだんに利用され、日常生活の歴史的変容がクリアに描出されていることに舌を巻く。

エビデンスが豊富であるだけでなく、それらが議論の流れに沿って整理して提示されるため、本書の主張はすんなり頭に入ってくる。過去一世紀のあいだに女性たちが「周縁化したのではなく、反対に、生産者として経済活動を拡大させてきた」こと(p.412)、男性は「個人の『経済的な利点』のためというよりは、他者との社会関係を築き、再編し、維持するために、土地、樹木、労働力を配分し、利用してきたこと」(p.416)という結論の主張は、きわめて説得的である。また、研究から導かれる政策提言――女性支援のために、彼女らの労働量の軽減に焦点を置くこと、そして男性の耕作を支援すること(p.423)――も示唆に富む。

素朴な問題意識を見失うことなく深く掘り下げた本書は、開発政策や既存のジェンダー研究の批判という水準を超えて、質の高い民族誌として成立している。それは川田順造氏の研究をはじめとする西アフリカ、サバンナ地域を対象とした一連の研究をふまえ、それを一歩前に進めたものとして高く評価できる。2019年度国際開発研究大来賞、2020年度地域研究コンソーシアム登龍賞のダブル授賞も当然のことに思う。

武内 進一(たけうち・しんいち/アジア経済研究所・東京外国語大学)

 
© 2021 Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization
feedback
Top