Africa Report
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2021 Volume 59 Pages 26

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タンザニア建国の父であるジュリウス・ニェレレ初代大統領(在職1962〜1985年)は生前、彼の伝記を書かせてほしいという申し出をすべて断ったと言われている。1999年の没後、ニェレレの伝記は複数出版されたが、それらは彼の人生や政治の一部を対象としていた。今回紹介する資料は、ニェレレの人生を初めて包括的に記した伝記である。ダルエスサラーム大学の著名な法学者、言語学者、政治学者が、タンザニア政府および英国政府の公文書館や大学等の文書館の資料、個人所有の記録を収集し、タンザニア、近隣国、英国において関係者への聞き取り調査を行い、6年かけて書き上げた計3巻、全体で1100ページを超える大著である。本伝記はおおむね時系列で書かれているが、3名の著者が各巻の筆頭著者を務めており、各巻に筆頭著者それぞれの関心分野や書き方の違いが顕著に表れている。その結果、全巻を通じてニェレレの人生を多角的に捉えることができる。

言語学者のヤーヤ・オスマンを筆頭著者とする第1巻は「哲学者兼統治者が作られるまで」と題し、ニェレレの生い立ちから始まり、彼の家族や個人的な人間関係が詳細かつ鮮明に描かれている。国政におけるニェレレの指導者像を扱った第2・3巻と異なり、第1巻からはニェレレの人間らしさが見えてくる。特に印象に残ったのは、彼の私設秘書を30年近く務めた英国人女性ジョアン・ウィッケン(Joan Wicken)の存在である。ウィッケン本人は否定したそうだが、本巻は彼女がニェレレの政治思想に対して大きな影響力を持っていたことを明らかにしている。続く第2巻「ナショナリストになるまで」は、政治学者のカマタを筆頭著者とし、1950年代から1970年代初期までのタンザニア独立期のニェレレの政治活動を記述している。第3巻「反抗者のいない反抗」は法学者のシヴジを筆頭著者とし、ニェレレの政治思想と社会主義政策を詳述している。ここで初めて本伝記全体の主題「反抗としての発展」が解説される。ニェレレにとって、不平等な世界でタンザニアが発展することは世界への反抗を意味していたという。本巻は、ニェレレが自由、平等、公正の実現を目指すという信念を持ちながらも、国家建設を進めていく上ではそれを犠牲にせざるを得なかった部分もあり、矛盾やジレンマを抱えていたことを明らかにしている。

今後、本伝記を補足、修正するような書物はあっても、これを超えるニェレレの伝記は出てこないだろう。著者らは他のアフリカ諸国の解放と結束のために尽力したニェレレについての伝記第4巻を準備中とのことなので、それを楽しみに待ちたい。

粒良 麻知子(つぶら・まちこ/アジア経済研究所)

 
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