2022 年 60 巻 p. 41
アパルトヘイト体制下の南アフリカにおいて、日本人が「名誉白人」と呼ばれていたことはよく知られている。「名誉白人」というのはメディアの造語であり、法的根拠はなかったものの、社会的なリアリティをもつ人種カテゴリーとして、それは確かに存在していた。本書は、このような「名誉白人」概念が、いかにして社会的に構築され、受容されるようになったのかを分析した研究書である。
本書は序章と終章を含め、全7章構成となっている。南アフリカの「名誉白人」をテーマとする本研究を、世界規模でのカラーライン(肌の色に基づく境界線)の形成にアジア系移民の存在が果たした役割に注目する近年の人種主義史研究の研究潮流のなかに位置づける序章に続き、第1章では関連する先行研究とインタビュー・データの概要が示される。第2章と第3章では、南アフリカにおけるアジア系移民規制の歴史と、1930年の「紳士協約」で日本人が禁止移民から除外された経緯が跡づけられる。第4章では、アパルトヘイト期の南アフリカに滞在していた日本人へのインタビュー調査に基づき、現地社会から遮断された「泡」にたとえられるエクスパトリエイト(駐在員)コミュニティの内部において、アパルトヘイトや人種問題がどのように経験されていたのかが論じられる。以上の議論をふまえ、第5章では「名誉白人」という概念がいかにして創出され、社会的リアリティを獲得したのか、また隣接するマイノリティ集団にとってどのような意味を持っていたのかが論じられる。終章では、各章の議論が要約されるとともに、アジア系移民への着目によって開かれるアフリカ‐アジア関係研究の新たな地平が展望される。
著者によれば、「白人」対「黒人」という二分法で捉えられがちであった人種主義史研究において、近年では、19世紀半ばから20世紀前半にかけてのアジア系移民の急激な流入が「白人」という集合的なアイデンティティ創出の契機となったことが強調されるようになっているという。このような研究動向をふまえて、南アフリカのアジア系移民をグローバルな「白人性」創出に深くかかわる存在として描ききった本書は、アフリカ研究やアフリカ‐アジア関係研究にとどまらず、人種主義史研究や移民研究においても、重要な研究成果として今後、広く参照されるものとなるだろう。
牧野 久美子(まきの・くみこ/アジア経済研究所)