2025 年 63 巻 p. 1-15
現在、グローバルに拡張する資本主義が世界中の辺境地に進出し、「資源のフロンティア」が形成されている。ケニア北西部に位置するトゥルカナ社会は、植民地期から現在まで政治的・経済的・社会的に周縁化されてきた歴史をもつ。しかしながら、この地域では2010年頃から多国籍企業が原油探査を開始し、現地住民は急激で予測が困難な経済的・社会的変化を経験している。本稿では、辺境の社会の若者たちが原油探査という未知の状況に果敢に立ち向かい、石油生産の利益配分を獲得していった軌跡を記述する。多国籍企業は当初、操業に対する住民の承諾を得るために現地の政治家などを優遇する戦略をとった。しかし、エリートだけが不当な便益を得ていると感じた一般住民は、道路封鎖などの「実力行使」によって企業の操業を妨害し、利益の配分を要求するようになった。また、現地の若者たちは自分の会社を創設し、さまざまな交渉をとおして多国籍企業の下請け仕事を勝ち取った。本稿ではこうした「実力行使」と下請け仕事の獲得を石油開発への「参入を求める闘い」と位置づけ、トゥルカナ社会の若者たちが未経験で不慣れな状況にいかに対処したのかを論ずる。